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お二人の力添えがあればこそ私の仕事も進むので

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私は正直、軍事的なことについてはまるで頭が働かない。そういう分野はメロエリータの独壇場だったな。

今のところ、この国は概ね平和だそうだからあまり気にしなくてもいいのかもしれないけど、本当はそっち方面からのアプローチもできると交渉事が有利になるというのはあると思う。

ファルトバウゼン王国やムッフクボルド共和国では兵站として役立てられるようにっていう話もさせてもらったりしてたけど、ホントのところは素人の思い付き程度のことでしかなかったんだ。

それが、メロエリータのフォローもあって上手くいっただけで。

いずれはそっち方面に明るい人材も欲しくなるところではあるかな。

だけど、無い物ねだりをしても話は進まないから、私にできることで進めなきゃいけないんだよね。



という訳で、今日は、ティンクラウラの両親に会いに行った。

ティンクラウラからの誘いもあって、食事を呼ばれに行くというていでね。

この手の人付き合いもあまり得意じゃないけど、これについてはこっちの世界に来てからかなり鍛えられた気もする。

おかげで話をするだけなら何とかなるんだ。

「わざわざ来ていただいてありがとうございます。

大してもてなしはできませんが、精一杯のことはさせていただくつもりです」

なんて畏まって言われたから、私もつい改まって、

「ご丁寧にありがとうございます。お二人の力添えがあればこそ私の仕事も進むので、本当は私の方こそお礼を申し上げないといけないですね」

とか言っちゃってた。

「何ともったいないお言葉…!」

ティンクラウラの両親は恐縮して、小さくなってた。私としてはそんなことを望んではいないんだけどな。

それでも、身分制度の厳しい社会だというのはやっぱりあるから、本来は国賓級の私を気安く家に招待することさえ憚られることだよね。

いろいろ関わってきて少しは打ち解けられたからこその招待だったんだろうけど、実際にはまだまだ壁があるか~。

ま、奴隷との間ほどじゃないからまだいいんだけどさ。

貴族とかが偉そうに横柄にしてるのって、そうしてないと逆にギクシャクしちゃうってのがあるのかなあ。

いや、やっぱりただ単に偉そうなだけかな。

まあそれはどっちでもいいか。

そんなこんなで、ちょっとぎこちなくはなっちゃったけど、料理は素朴でありながら美味しかったし、

「ごめんなさい。お父さんもお母さんも固くなっちゃってて」

と、ティンクラウラは割と普通にしてくれてたし、良かったんじゃないかな。

ちなみに今回は、ベントはただただ私の従者を演じてくれてて、一切でしゃばってこなかったんだよね。

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