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働き者の手は誇らしいと私は思います

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仕事を休んでいる間も、エマのことは放っておかない。と言うか、仕事を休んでいるからこそ彼女の様子をしっかりと見させてもらった。

奴隷に休みを与えてもどうしていいのか分からなくて呆然とするだけなので、年末年始もいつもと変わらずに仕事を続けてもらった。庭掃除と、使用人用の風呂場の掃除を。

彼女はそれらを文句も言わずに黙々と繰り返す。

庭の雑草を抜くのもサボらない。天気は割と良かったからマシだったかもしれないけど、寒風が吹く中、手袋も使わずに素手で雑草を引きぬいていく。

過酷な仕事を続けていた彼女の手は、まるでグローブのように皮が厚くなり、手袋とかは必要なくなっていたんだろうな。

私も彼女ほどじゃないけど、少なくとも<女性らしい綺麗な手>じゃない。

だけど、ベントはそんな私の手を、

「働き者の手は誇らしいと私は思います」

って言ってくれるんだ。

だから私も、一緒にお風呂に入った時、働き者の誇らしい彼女の手を労いつつマッサージしながら<治療>した。

ただ、こっちについてはあまり綺麗になってしまうと、逆に、真冬に寒空の下で雑草を抜くのが余計に辛くなってしまう可能性もあるから、あまり綺麗になられても困るかな。



そんなこともありつつ、

「さぁて、いつまでも休んでもいられないな」

年が明けて三日が経ち、私はそう気合を入れ直していた。

灌漑工事の方も明日から再開するらしい。アルカセリスが、

「明日から私も、現場の方で管理役を仰せつかりました」

と、まだ正式な辞令は出てないけど内々の話としてそういうことになったと言ってた。

ただ、彼女はまだ資格は取ってないので、あくまで現場担当者の助手という扱いみたいだけどね。

「そうか。いよいよってことかな。頑張って。って言うまでもなくあなたなら頑張るか」

昼食の用意をする彼女とそんなやり取りをする。

「で、現場はどこ?」

「この前、カリンさんと一緒に行ったところに繋がる水路の工事です」

「なるほど。ようやくあの地域にもってことだね」

「はい。あそこは雪解け水が望めないとそれこそ馬車で毎日水を運ばなきゃいけなくなる場所なので、農民達も切実に望んでたところだそうです」

「だろうね。本当ならわざわざあんなところに畑とか作らない筈だけど、いろいろ事情があったんだろうし、それは言わないお約束ってことかな」

「ええ。元はと言えば、隣国との小競り合いの際に物資を運ぶ為の中継基地として拓かれた土地だそうです。当時はそれが必要だったんでしょうね」

「なるほど。軍事的なことは私はさっぱりだけど、意味はあったってことか」

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