338 / 535
余ったから食べなさい。餅が入ってるからしっかり噛んで
しおりを挟む
なんてことを、お雑煮を食べながら考えてた私だけど、私と、ベントと、アルカセリスと、ティンクラウラの四人での時間が、とても楽しくて幸せなのも事実なんだ。
本当はここにエマも加わって欲しいんだけど、今はまだそれは難しいというのもちゃんと分かってる。
だから無理はしない。
食事を終えて、ティンクラウラを家まで送り届けて、アルカセリスが今日の仕事を終えて宿舎へと帰ってから、私は、残っていたお雑煮を温め直してそれを手に、奴隷小屋へと向かった。
「いい? 開けるわよ」
一応、ノックだけはして、でも返事は聞かずにドアを開け、私は中に入った。
するとエマは、床に手をついて服従の姿勢を見せつつ、私の指示を待った。
そこで私は、
「それはもういいから立ちなさい。それからテーブルに着いて」
私が指示すると、エマはすかさずその通りにしてくれた。
で、その彼女の前に、大きめの椀に入れたお雑煮を置いて、さらに命じた。
「余ったから食べなさい。餅が入ってるからしっかり噛んで」
「……」
何か言いたげに私を見た彼女には取り合わず、
「文句言わずに食べなさい」
と命じた。
彼女には基本的に好き嫌いがないことは確認してある。私はまた、椅子が壊れないか慎重に確認しつつ座って、彼女がお雑煮を食べ始めるのを眺めてた。
すぐにその場を立ち去ってもよかったんだけど、やっぱり彼女がお雑煮を喜んでくれるかどうか、いや、分かりやすく喜んだりはしないのは分かってるけど、嫌がってるかどうかだけなら表情を見てれば分かる。
それを確認したかったのと、万が一事故が起こっても嫌だし、彼女が食べ終わるまでそこにいた。
『もったいなくて食べられない』
的にすぐには手を付けなかった彼女も、
「冷めたら餅が硬くなるから、今のうちに食べなさい」
と私に指示されると観念したかのように食べ始めた。
すると一口含んだ時にハッとなったのが分かった。あたたかくて、しかも美味しいものなんて恐らくほとんど食べたことがないだろう。
私に言われたからというのもあるかもしれないけど、彼女はすごく丁寧にじっくりと味わいながらお雑煮を食べていった。
お餅もしっかり噛んで、と言うより味わって、食べてくれた。
そんな彼女の表情は、とても穏やかなそれに見えた。
しかも、目が潤んだと思ったら、ポロポロと涙を流し始めて……
だけど私は敢えて何も言わずに、ただ彼女が食べ終わるまで待った。
余計なことを言って、彼女がせっかく味わってくれてるのに水を差すのも嫌だったからね。
『おかわりは?』とか訊いたら遠慮するのが分かってたから、最初から大きめの椀にもって行ったんだけど。正解だったみたいだ。
残さずキレイに食べ切ったエマは、再度床に膝をついて手をついて、深々と頭を下げたのだった。
本当はここにエマも加わって欲しいんだけど、今はまだそれは難しいというのもちゃんと分かってる。
だから無理はしない。
食事を終えて、ティンクラウラを家まで送り届けて、アルカセリスが今日の仕事を終えて宿舎へと帰ってから、私は、残っていたお雑煮を温め直してそれを手に、奴隷小屋へと向かった。
「いい? 開けるわよ」
一応、ノックだけはして、でも返事は聞かずにドアを開け、私は中に入った。
するとエマは、床に手をついて服従の姿勢を見せつつ、私の指示を待った。
そこで私は、
「それはもういいから立ちなさい。それからテーブルに着いて」
私が指示すると、エマはすかさずその通りにしてくれた。
で、その彼女の前に、大きめの椀に入れたお雑煮を置いて、さらに命じた。
「余ったから食べなさい。餅が入ってるからしっかり噛んで」
「……」
何か言いたげに私を見た彼女には取り合わず、
「文句言わずに食べなさい」
と命じた。
彼女には基本的に好き嫌いがないことは確認してある。私はまた、椅子が壊れないか慎重に確認しつつ座って、彼女がお雑煮を食べ始めるのを眺めてた。
すぐにその場を立ち去ってもよかったんだけど、やっぱり彼女がお雑煮を喜んでくれるかどうか、いや、分かりやすく喜んだりはしないのは分かってるけど、嫌がってるかどうかだけなら表情を見てれば分かる。
それを確認したかったのと、万が一事故が起こっても嫌だし、彼女が食べ終わるまでそこにいた。
『もったいなくて食べられない』
的にすぐには手を付けなかった彼女も、
「冷めたら餅が硬くなるから、今のうちに食べなさい」
と私に指示されると観念したかのように食べ始めた。
すると一口含んだ時にハッとなったのが分かった。あたたかくて、しかも美味しいものなんて恐らくほとんど食べたことがないだろう。
私に言われたからというのもあるかもしれないけど、彼女はすごく丁寧にじっくりと味わいながらお雑煮を食べていった。
お餅もしっかり噛んで、と言うより味わって、食べてくれた。
そんな彼女の表情は、とても穏やかなそれに見えた。
しかも、目が潤んだと思ったら、ポロポロと涙を流し始めて……
だけど私は敢えて何も言わずに、ただ彼女が食べ終わるまで待った。
余計なことを言って、彼女がせっかく味わってくれてるのに水を差すのも嫌だったからね。
『おかわりは?』とか訊いたら遠慮するのが分かってたから、最初から大きめの椀にもって行ったんだけど。正解だったみたいだ。
残さずキレイに食べ切ったエマは、再度床に膝をついて手をついて、深々と頭を下げたのだった。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない
草笛あたる(乱暴)
恋愛
《視点・山柿》
大学入試を目前にしていた山柿が、一目惚れしたのは黒髪ロングの美少女、岩田愛里。
その子はよりにもよって親友岩田の妹で、しかも小学3年生!!
《視点・愛里》
兄さんの親友だと思っていた人は、恐ろしい顔をしていた。
だけどその怖顔が、なんだろう素敵! そして偶然が重なってしまい禁断の合体!
あーれーっ、それだめ、いやいや、でもくせになりそうっ!
身体が恋したってことなのかしら……っ?
男女双方の視点から読むラブコメ。
タイトル変更しました!!
前タイトル《 恐怖顔男が惚れたのは、変態思考美少女でした 》
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~
代々木夜々一
ファンタジー
高校生3年F組28人が全員、召喚魔法に捕まった!
放り出されたのは闘技場。武器は一人に一つだけ与えられた特殊スキルがあるのみ!何万人もの観衆が見つめる中、召喚した魔法使いにざまぁし、王都から大脱出!
3年F組は一年から同じメンバーで結束力は固い。中心は陰で「キングとプリンス」と呼ばれる二人の男子と、家業のスーパーを経営する計算高きJK姫野美姫。
逃げた深い森の中で見つけたエルフの廃墟。そこには太古の樹「菩提樹の精霊」が今にも枯れ果てそうになっていた。追いかけてくる魔法使いを退け、のんびりスローライフをするつもりが古代ローマを滅ぼした疫病「天然痘」が異世界でも流行りだした!
原住民「森の民」とともに立ち上がる28人。圧政の帝国を打ち破ることができるのか?
ちょっぴり淡い恋愛と友情で切り開く、異世界冒険サバイバル群像劇、ここに開幕!
※カクヨムにも掲載あり
魔王の息子、潜入した勇者養成学校で王女様に一目惚れをする〜彼女のために勇者を目指します〜
洸夜
ファンタジー
魔王バエルに対抗する勇者や魔術師を養成するため、中立都市に設立されたグランレイヴ魔術学院。
バエルの息子であるゼノス・ヴァルフレアは、人間たちの力を見極めるという任務を受け、種族を偽り学院に潜入する。
しかし、潜入初日に出会ったルナミス王国の第一王女、イリス・レーベンハイトに一目惚れをしてしまう。
対するイリスもゼノスに一目惚れをするのだが、お互いに想いを伝えることができないでいた。
ゼノスは任務よりもイリスのことが気になってしまう。
ある日、課外授業でイリスと二人きりでダンジョンに潜ることになり、その時の出来事がキッカケでお互いの想いを伝え合った二人は結ばれたのだった。
しかし、身分が邪魔をして、今のままでは堂々と付き合うことができない。
誰の目も気にせず付き合うにはゼノスが『偉業』、つまり魔族を倒し、勇者に選ばれる必要があるとイリスは言う。
俺、魔王の息子なんですけど……
「私のために、勇者になってくれますか?」
イリスの願い、ひいては自分のために勇者になることを決意したゼノスだが、本来現れるはずのない高レベルの魔族に襲われたり、帝国の皇帝に気に入られたり、その娘である第一皇女からは執拗なアピールを受け、息子の第一皇子からは友になれと迫られる。
ゼノスはさまざまな障害を乗り越え、二人の仲を進展させることができるのか⁉︎
これは愛する彼女のために、立ちはだかる敵を無双する男の物語。
転生チートの時間停止など不要!~非力で敵にダメージが与えられないので頑張って筋トレ→あれ、強くなりすぎてこれもう時止める必要なくね?←今ここ
榊与一
ファンタジー
細田陽炎(ほそだかげろう)。
生まれつきの病で虚弱だった彼は、18という若さで命を落としてしまう。
病死の間際、彼の望んだ事はただ一つ――
『もし生まれ変われたなら、こんどは誰よりも強い体を手に入れたい』
――だ。
そしてそんな切な願いを、神が叶えてくれる。
彼は転生し、更にチート能力として時間を止める能力まで手に入れた。
「最強の体じゃないけど、時を止められるとかもう完全に無敵じゃないか!」
そう喜んだのもつかの間、最初に出会った魔物に真面にダメージが通らない始末。
「よっわ!俺超よわ!」
それもそのはず。
転生して病気は無くなったが、基本のスペックは転生前と一緒だったのだ。
「くそっ!こうなったら体を鍛えるしかない!」
仕方なく最初に用意された安全ポイントで筋トレ等の訓練をする事十年、細田陽炎は遂にそこから出る事となる。
最強の肉体を手に入れて。
「お。ワンパンだ!俺つえぇ!!」
この物語は、時止めチートを使わせてくれる強敵を求めて化け物と化した主人公が異世界を徘徊するお話。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる