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大事なものならしっかりと持ってなさい
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お風呂で一緒に湯船に浸かりながら、エマの体を改めて詳細に調べたけど、若干の栄養失調と痛々しい傷痕以外は実はそんなに酷い状態でもないことが分かった。
体内にいる細菌類にしても、免疫が強くてしっかりガードされている。彼女の置かれている厳しい環境でも生き延びようとして体が適応してるんだろうな。
でもだからって厳しい環境に置くことが体にいいなんて私は言わない。自分が彼女と同じ扱いを受けてそれで納得できるのかってことだよ。
少なくとも私はそんなの納得できないし絶対に嫌だ。自分が嫌なのに他人にそれをさせるなんて、冗談じゃない。
という想いを一層強くして、私はお風呂から上がった。だけどエマは自分からは上がってこない。私が命じないとダメなんだ。
だから先に体を拭いて、それから、
「上がりなさい」
と命じた。
そして彼女の体を私が拭く。
あばらが浮いた薄い胸に申し訳程度に乗った胸の膨らみ。女性らしい体を作るよりもまずは生きることを優先したその姿。
別に女性らしいプロポーションこそ価値があるとは言わないにしても、やっぱり見ているだけでも辛い。
そんな彼女の体を丁寧に拭きあげて、それから、
「これ、もう要らないの? 要らないのなら捨てるけど、要るのなら言って」
そのうち捨てようと思ってついついそのままにしてあった、古い包帯を彼女に見せた。
するとその目に、
「…!」
って感じでハッと感情が揺らぐのが見えた。
だから私も、
「要るのね?」
と改めて問い掛ける。するとエマは、おずおずと遠慮がちに小さく頷いた。
「……もしかして何か思い出があるの?」
さらに問い掛けると、彼女は、
「おかあさんのだから……」
たどたどしいしゃべり方で、でも、たぶん、これまでで一番はっきりとしゃべったんじゃないかな。
「お母さんの形見…?」
私の言葉に、再び彼女は頷く。
それを見て、私はホッとした。
『捨てなくてよかった…』
って。
「お母さんが使ってたのを、あなたがもらったとか?」
「……」
エマが三度頷く。
『そっか……奴隷として持つことができた唯一のものがこの包帯ってことか……』
きっと彼女のお母さんが亡くなった時に唯一譲り受けることができたんだろう。こんなボロボロの包帯だけが、彼女に残されたただ一つの<母親のもの>か……
別にこれを予測してたわけじゃないけど、でも何となく捨てそびれていたのは、心のどこかに引っかかるものがあったのかもしれない。
「大事なものならしっかりと持ってなさい。私はあなたの持ち物については関知しない。捨てたりしないし捨てろとも言わない。あなたのものはあなた自身で管理しなさい」
そう言ってバスローブを身に着けて、
「服を着て今日はもう休みなさい。明日からまた書き取りをしてもらうから」
と告げつつ、私は母屋へと戻ったのだった。
体内にいる細菌類にしても、免疫が強くてしっかりガードされている。彼女の置かれている厳しい環境でも生き延びようとして体が適応してるんだろうな。
でもだからって厳しい環境に置くことが体にいいなんて私は言わない。自分が彼女と同じ扱いを受けてそれで納得できるのかってことだよ。
少なくとも私はそんなの納得できないし絶対に嫌だ。自分が嫌なのに他人にそれをさせるなんて、冗談じゃない。
という想いを一層強くして、私はお風呂から上がった。だけどエマは自分からは上がってこない。私が命じないとダメなんだ。
だから先に体を拭いて、それから、
「上がりなさい」
と命じた。
そして彼女の体を私が拭く。
あばらが浮いた薄い胸に申し訳程度に乗った胸の膨らみ。女性らしい体を作るよりもまずは生きることを優先したその姿。
別に女性らしいプロポーションこそ価値があるとは言わないにしても、やっぱり見ているだけでも辛い。
そんな彼女の体を丁寧に拭きあげて、それから、
「これ、もう要らないの? 要らないのなら捨てるけど、要るのなら言って」
そのうち捨てようと思ってついついそのままにしてあった、古い包帯を彼女に見せた。
するとその目に、
「…!」
って感じでハッと感情が揺らぐのが見えた。
だから私も、
「要るのね?」
と改めて問い掛ける。するとエマは、おずおずと遠慮がちに小さく頷いた。
「……もしかして何か思い出があるの?」
さらに問い掛けると、彼女は、
「おかあさんのだから……」
たどたどしいしゃべり方で、でも、たぶん、これまでで一番はっきりとしゃべったんじゃないかな。
「お母さんの形見…?」
私の言葉に、再び彼女は頷く。
それを見て、私はホッとした。
『捨てなくてよかった…』
って。
「お母さんが使ってたのを、あなたがもらったとか?」
「……」
エマが三度頷く。
『そっか……奴隷として持つことができた唯一のものがこの包帯ってことか……』
きっと彼女のお母さんが亡くなった時に唯一譲り受けることができたんだろう。こんなボロボロの包帯だけが、彼女に残されたただ一つの<母親のもの>か……
別にこれを予測してたわけじゃないけど、でも何となく捨てそびれていたのは、心のどこかに引っかかるものがあったのかもしれない。
「大事なものならしっかりと持ってなさい。私はあなたの持ち物については関知しない。捨てたりしないし捨てろとも言わない。あなたのものはあなた自身で管理しなさい」
そう言ってバスローブを身に着けて、
「服を着て今日はもう休みなさい。明日からまた書き取りをしてもらうから」
と告げつつ、私は母屋へと戻ったのだった。
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