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だったらその時々で自分にできることを頑張ればいいじゃん

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夜。

詰所での仕事を終えて私の<使用人>としての仕事をしながらも、アルカセリスは資料を見ながら勉強してた。

お風呂場で、洗濯板と桶を使って洗濯しつつ、横に置いたそれを読みながらとかね。

『ガチだな~、ガチすぎるな~』

はっきり言って大学受験の時の私よりよっぽどマジだよ。

「あまり根を詰めすぎないようにね」

そう声を掛ける私に、彼女は、

「大丈夫です! なんかすごく面白くなってきて勝手に頭に入ってくる感じなんです…!」

だって。

ああ、だけどその感じ、分かる気がする。私も調子のいい時にはそういうのあるから。

なんてこともありつつ洗濯と掃除を終えた彼女をリビングに招き、お茶にする。

「楽しそうだね」

私の言葉に、アルカセリスは嬉しそうに笑いながら、

「はい…♡」

って応えてくれた。この時の笑顔がまたすごく良くて、私までつられて笑顔になる。

うん。心身共に充実してる人の笑顔っていいね。こっちまで元気がもらえる気がするよ。

すると彼女は、今度は少し苦笑いになりながら、静かに語り始めた。

「…カリンさんの心を私にモノにできなかったのはすごく残念ですけど、でも、もしそれが叶っちゃってたら、私、こんなに仕事に対して真剣になれたかどうか、自信がないんです。

カリンさんに甘えるのに忙しくて、パパッと適当に終わらせてたんじゃないかなって気もするんです。

だから、想いが叶わなかったのは残念ですけど、それがあったからこそこれに気付けたのかもしれない。そう考えたら人生って不思議ですよね……」

彼女の言ったことは私の実感でもあった。

これまでの私の人生だって、順風満帆だったことはほとんどない。それどころか、自分の思った通りにはならなかったことの方がずっと多い。家族のことがまずそうだ。私にとっては<ハズレガチャ>以外の何物でもなかった。

だけどあの家族のところに生まれていたからこそ、そこから抜け出そうとして努力をして、大学まで行けて、それで農業の勉強をして、そのことが今に役立ってるんだ。

ここに来てしまったことだって、向こうじゃ私以上に優れた人なんていくらでもいたから、パッとすることもなくどこかで普通に農業をして平々凡々に過ごしてただけかもしれない。

それはそれでよかったかなって思うけど、そうなるとベントとも出逢ってなかった訳だからなあ。

思い通りにならなくたって、たくさん回り道することになったって、実は幸せを掴むことはできると改めて実感した。

私は、今の人生に悔いはない。いいことばかりじゃなかったとしても、何もかも自分の思い通りになる世界なんてどこを探したってないと思う。

思い通りにいかないからってクサってたって、上手くいくわけじゃないよ。

だったらその時々で自分にできることを頑張ればいいじゃん。それが道を切り開くきっかけになることだってあるんだからさ。

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