323 / 535
<適性>ってのはこういうことも含めての話なんだろうな
しおりを挟む
「セリス、それは…?」
アルカセリスが図面と地図と実際の景色とを見比べながら何かメモを取ってたのを見て、私は思わず尋ねていた。
すると彼女は、少し照れくさそうに微笑みながら、
「私も少しでもお手伝いできたらと思って、どうするのがいいのかなって考えてみたんです」
ほほう? それはそれは。
「ちょっと見せてみて」
そう言って私は、彼女の手から軽くひったくるみたいにしてメモを手に取った。
「あ…!」
ってアルカセリスは慌てたみたいに声を上げるけど、後の祭りだ。
するとそこには、ここに来てから書いたものだけとは明らかに違う分量の走り書きがびっしりと書き込まれていたのだった。
しかも、
『この位置からだと水の流れが滞ってしまうかも』
『ここは無理に真っ直ぐ通すよりも、迂回させた方が…』
等々、ぱっと見でもかなり真剣に綿密に考えてるなっていうのが伝わってくる内容だ。
「……セリス、あなた灌漑設備についての知識が…?」
それは、まったくの素人じゃ思いもつかないものだった。多少なりとも知識がないとこういう考え方はできない。
だけど彼女は、
「いいええ! 私はそういうのまったく分からなくて。ああでも、資料を整理する為に目を通してるうちにちょっとずつ意味が分かってきた感じかもしれないですけど」
だって。
おいおい、
『門前の小僧、習わぬ経を読む』
ってやつか…?
私だって散々図面とか見てきたけど、それでも正直、心許ないってのに。
「ベント、あなたに分かる? これ」
ベントに見せながら尋ねても、
「いえ、正直、半分も分かりません」
ってことだった。
「だよね。あなたにはまだそっちはやってもらってないし」
これはあれだぞ。思わぬ拾い物かもしれないぞ。
<人材>ってやつは、求めてもなかなか得られないことも多い。自分がほしい人材と、周りにいる人がうまく噛み合わないことだってザラだ。
その一方で、思わぬところからその人材が現れる時もある。
『これは、ひょっとするとひょっとするかも……!』
正直なところ、灌漑に関しては私の方も意見は出すものの、どうしても素人の域を出ないものだったのは事実だ。私は土壌に関する知識はそれなりにあっても、土木工事に求められるそれとはやっぱり違う。
必要だから何とか覚えようとはするんだけど、これが不思議と頭に入ってこない。たぶん、アルカセリスよりはよっぽど図面とか見てきてるはずなのに。
<適性>ってのはこういうことも含めての話なんだろうな。
現実はフィクションのようにいかないけど、時にはフィクション以上に出来過ぎな事実があったりするのも実際だと思う。
「セリス。あなたにはこれから、灌漑工事に関する勉強をしてもらっていいかな。もちろん私の為にでいいから」
「…はい♡」
二つ返事で応えた彼女は、なんだかとても嬉しそうなのだった。
アルカセリスが図面と地図と実際の景色とを見比べながら何かメモを取ってたのを見て、私は思わず尋ねていた。
すると彼女は、少し照れくさそうに微笑みながら、
「私も少しでもお手伝いできたらと思って、どうするのがいいのかなって考えてみたんです」
ほほう? それはそれは。
「ちょっと見せてみて」
そう言って私は、彼女の手から軽くひったくるみたいにしてメモを手に取った。
「あ…!」
ってアルカセリスは慌てたみたいに声を上げるけど、後の祭りだ。
するとそこには、ここに来てから書いたものだけとは明らかに違う分量の走り書きがびっしりと書き込まれていたのだった。
しかも、
『この位置からだと水の流れが滞ってしまうかも』
『ここは無理に真っ直ぐ通すよりも、迂回させた方が…』
等々、ぱっと見でもかなり真剣に綿密に考えてるなっていうのが伝わってくる内容だ。
「……セリス、あなた灌漑設備についての知識が…?」
それは、まったくの素人じゃ思いもつかないものだった。多少なりとも知識がないとこういう考え方はできない。
だけど彼女は、
「いいええ! 私はそういうのまったく分からなくて。ああでも、資料を整理する為に目を通してるうちにちょっとずつ意味が分かってきた感じかもしれないですけど」
だって。
おいおい、
『門前の小僧、習わぬ経を読む』
ってやつか…?
私だって散々図面とか見てきたけど、それでも正直、心許ないってのに。
「ベント、あなたに分かる? これ」
ベントに見せながら尋ねても、
「いえ、正直、半分も分かりません」
ってことだった。
「だよね。あなたにはまだそっちはやってもらってないし」
これはあれだぞ。思わぬ拾い物かもしれないぞ。
<人材>ってやつは、求めてもなかなか得られないことも多い。自分がほしい人材と、周りにいる人がうまく噛み合わないことだってザラだ。
その一方で、思わぬところからその人材が現れる時もある。
『これは、ひょっとするとひょっとするかも……!』
正直なところ、灌漑に関しては私の方も意見は出すものの、どうしても素人の域を出ないものだったのは事実だ。私は土壌に関する知識はそれなりにあっても、土木工事に求められるそれとはやっぱり違う。
必要だから何とか覚えようとはするんだけど、これが不思議と頭に入ってこない。たぶん、アルカセリスよりはよっぽど図面とか見てきてるはずなのに。
<適性>ってのはこういうことも含めての話なんだろうな。
現実はフィクションのようにいかないけど、時にはフィクション以上に出来過ぎな事実があったりするのも実際だと思う。
「セリス。あなたにはこれから、灌漑工事に関する勉強をしてもらっていいかな。もちろん私の為にでいいから」
「…はい♡」
二つ返事で応えた彼女は、なんだかとても嬉しそうなのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
72
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる