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決して不要な存在ってわけじゃないと、それで学んだんだよね

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私に言われたことを自分の中で整理しようとしてるかのように、ティンクラウラは、

「う~…う~…」

と小さく唸りながらも馬車の荷台に座って大人しくしてた。

するとティンクフルムが、

「ありがとうございます…」

って囁くように言う。そんな彼に私は苦笑いっぽく微笑みながら、

「別に感謝してもらうほどのことじゃないよ。私はただ、ラウラのことを評価してるから、無駄に敵を増やして辛い思いをしてほしくないだけなんだ。あくまで私の都合だよ」

そう告げさせてもらった。それも事実だ。私はラウラを大事に育てたいと思ってるだけで、それって結局は私がそうしたいだけってことだから。

「もちろん、フルムのことも頼りにしてる。だから、ラウラがあなたを叱責した気持ちも想像できる気はする。ラウラはあなたに頑張ってもらいたいだけなんだよ」

「はい、それは分かってます。ラウラは真面目ないい子なんです。ちょっと思い込みが激しいところもありますけど」

ティンクフルムがそう口にした途端、

「あ、なにそれお兄ちゃん! ラウラのことをバカにしてる!?」

と食って掛かった。

小声で言ったけどしっかり聞こえてしまったようだ。

「いや、バカにとかしてないよ! ただホントのことを言っただけで…!」

慌てて弁明するけどそれがまた気に障ったらしくて、

「もう! お兄ちゃんのバカ!!」

だって。

そのやり取りが微笑ましくて、私はなんだか羨ましかった。私と、私の兄との間にはこんな関係性はなかった。あの人にとっては私は厄介で面倒臭い邪魔者であって、気持ちを通わせ合う<家族>じゃなかったんだ。

家族物の物語なんかじゃ、そういう気持ちのすれ違いはあってもいつかは分かり合えるっていうのが鉄板なんだろうけど、私達家族の間には、そんな<綺麗事>はなかった。

たぶん、血は繋がってても、一緒に暮らしてても、その本質は、

<決して分かり合えることのない外敵>

だったんじゃないかな。

こちらが歩み寄ろうとするとつけあがる、本当に嫌な人間だった。

だけど、私にとってはそうでも、仲のいい人とか、彼らを当てにしてる人がいたことも事実なんだよね。私とはとことん合わなかったけど、気の合う相手だって確かにいたんだよ。

そういう意味じゃ、

<この世にいない方がいい人間>

って訳でもなかった。

私が、私にとって都合の悪い人のことも、

『お前なんかいなくなってしまえばいい!!』

と言わない理由がそこにあるとも言えるかな。

私の感覚がこの世の全てじゃないし、常に正しいわけでもない。私には理解できない、私にとってはただ不快なだけの存在でも、決して不要な存在ってわけじゃないと、それで学んだんだよね。

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