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私の為に役に立ってもらうから、覚悟しなさい
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エマが包帯で隠している傷の具合が気になって、私はいよいよ決心した。
そして、彼女が使用人用のお風呂に入っている気配を確認して、彼女が巻いていた包帯が床に落ちているのを確かめて、ドアをノックする。
すると中から、ガターン! ガラガラ!と騒々しい物音がして、
「は…はい!」
と焦って裏返った声で返事があった。
『どんだけ驚いてるの……?』
なんて思いながら、
「開けるよ」
って承諾を求めずにそのままドアを開けた。奴隷の彼女に承諾を求めたって意味がないからね。
突然ドアを開けられた彼女は、洗い場の隅で小さくなってやっぱり床に頭をつけていた。もちろん裸で。
だけどその体には……
その体には、無数の傷痕や痣があった。それこそ、何かそういう演出なんじゃないかっていうくらいに、どんな風にしたらそんな傷が付くのか分からない、肉そのものが抉られたみたいな、吐き気をもよおしそうな恐ろしい傷痕だった。
「<道具>の状態を確かめたいの。立って。真っ直ぐ立って、私に見せなさい」
内心ではものすごく動揺してるけど、そういうのを一切見せないように心掛けて、『冷徹になれ!』と自分に言い聞かせて、命令する。
するとエマは、裸のまま、そして包帯を取った姿のまま、躊躇いがちだけど私の前に立った。
『……ヒドい……』
私の胸の奥から込み上げてくるものがある。それが喉の奥につかえて息苦しい。だって、包帯を取った彼女の顔は、とても人間のものとは思えない状態だったから。
一体、なにをどうしたらそんなことになるのか分からない、辛うじて想像できるのは、『皮膚が剥がれてそのまま治療もせずに自然に治るのを待った』って感じなのかな。
ケロイド状に引き攣れた傷痕が顔のほぼ全部を覆ってた。鼻も、骨が折られてそのままにしてたのか変形してしまってる。唇も削り取られたみたいに半分になって、口を閉じてるのに歯が少し覗いてた。
『これを、人間がやったのか……この国の人達が……』
割り切ってるつもりだけど、そういうものだと分かってるつもりだけど、納得はできなかった。こんなことがまかり通る現実に、打ちのめされる。
だから気付いた時には私の目から涙がこぼれてた。それが頬を伝ってようやく自分が泣いてることに気が付いたんだ。
「ご主人様…?」
エマが困惑してるのが分かる。どうしていいのか分からないっていう感じでオロオロと私を見てる。そんな彼女を見て、私は再度気を取り直して、涙を拭って、言ったんだ。
「傷は治ってるみたいだね。だったらいい。私の為に役に立ってもらうから、覚悟しなさい」
そして、彼女が使用人用のお風呂に入っている気配を確認して、彼女が巻いていた包帯が床に落ちているのを確かめて、ドアをノックする。
すると中から、ガターン! ガラガラ!と騒々しい物音がして、
「は…はい!」
と焦って裏返った声で返事があった。
『どんだけ驚いてるの……?』
なんて思いながら、
「開けるよ」
って承諾を求めずにそのままドアを開けた。奴隷の彼女に承諾を求めたって意味がないからね。
突然ドアを開けられた彼女は、洗い場の隅で小さくなってやっぱり床に頭をつけていた。もちろん裸で。
だけどその体には……
その体には、無数の傷痕や痣があった。それこそ、何かそういう演出なんじゃないかっていうくらいに、どんな風にしたらそんな傷が付くのか分からない、肉そのものが抉られたみたいな、吐き気をもよおしそうな恐ろしい傷痕だった。
「<道具>の状態を確かめたいの。立って。真っ直ぐ立って、私に見せなさい」
内心ではものすごく動揺してるけど、そういうのを一切見せないように心掛けて、『冷徹になれ!』と自分に言い聞かせて、命令する。
するとエマは、裸のまま、そして包帯を取った姿のまま、躊躇いがちだけど私の前に立った。
『……ヒドい……』
私の胸の奥から込み上げてくるものがある。それが喉の奥につかえて息苦しい。だって、包帯を取った彼女の顔は、とても人間のものとは思えない状態だったから。
一体、なにをどうしたらそんなことになるのか分からない、辛うじて想像できるのは、『皮膚が剥がれてそのまま治療もせずに自然に治るのを待った』って感じなのかな。
ケロイド状に引き攣れた傷痕が顔のほぼ全部を覆ってた。鼻も、骨が折られてそのままにしてたのか変形してしまってる。唇も削り取られたみたいに半分になって、口を閉じてるのに歯が少し覗いてた。
『これを、人間がやったのか……この国の人達が……』
割り切ってるつもりだけど、そういうものだと分かってるつもりだけど、納得はできなかった。こんなことがまかり通る現実に、打ちのめされる。
だから気付いた時には私の目から涙がこぼれてた。それが頬を伝ってようやく自分が泣いてることに気が付いたんだ。
「ご主人様…?」
エマが困惑してるのが分かる。どうしていいのか分からないっていう感じでオロオロと私を見てる。そんな彼女を見て、私は再度気を取り直して、涙を拭って、言ったんだ。
「傷は治ってるみたいだね。だったらいい。私の為に役に立ってもらうから、覚悟しなさい」
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