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まずは<私のところの奴隷>としての役目を与えることにする

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エマの魔法適性は、本当に微々たるものだったけど、少なくとも堆肥化の魔法くらいなら十分に使えるレベルだってことが分かって私は満足だった。彼女に覚えてもらえれば、同じ奴隷にそれを教える時に指導役になってもらえるからね。

奴隷に対しては魔法を教えるのさえ嫌がる人が多そうだし。

この辺りは、なかなか悩ましいところではある。効率よくできてくれると嬉しいんだけどな。

もっとも、排泄物の処分場を堆肥工場に転用する話がまず決まってくれないと先に進めないけどさ。

取り敢えずそれまでは、エマに、私の下での生活に慣れてもらうことになるかな。

とは言っても、生まれてからずっと叩き込まれてきた<奴隷としての感覚>はそう簡単に覆るものでもない。だからまずは<私のところの奴隷>としての役目を与えることにする。

「汲み取りの仕事の引継ぎが済むまでは、それを確実にこなすこと。その上で、空いた時間には庭の掃除をお願いするね」

「はい……」

って感じで、エマは素直に私の指示に従ってくれた。

汲み取りの仕事は殆ど深夜と変わらない明け方前に始まるから、それこそ日が変わる前に家を出ることになる。

しかも、私が命令しないと食事もとらずにずっと庭掃除を続けて殆ど寝ずに汲み取りの仕事に行くっていうことをしようとするから、

「庭掃除は日が暮れるまでに終わること。食事は必ずとること。食事の後はしっかりと寝ること。いい? これは命令だからね? あなたは私の大事な<道具>なの。無理な仕事をして体を壊されると困るの。自分の体を大事にしなさい。辛い時には私かルイスベントに必ず報告すること。分かった?」

「はい……」

さすがにこう言うとそれなりに守ろうとはしてくれた。

ただ、『しっかり眠りなさい』と言われても、私が奴隷小屋に用意した安物のカーペットの上でシーツにくるまって寝るのすら慣れてないらしくて、なかなか寝付けないみたいだった。

この邸宅の元の持ち主の豪商は体裁に拘ったらしくて奴隷小屋もそれなりにしっかりした作りだったから、隙間風とかが入ってきて寒くて寝られないというほどじゃないとは思う。

なにしろ普通の奴隷達は、ゴミとして捨てらるようなボロ切れを体に巻き付けで、竹で編まれたゴザのような床敷きの上で、何人もが体を寄せ合うことで暖を取りながらの雑魚寝が一般的らしいからね。

ファルトバウゼン王国の奴隷達も相当厳しい扱いだったけど、蔑まれてはいても憎まれてまではいなかったからか、ここよりはまだマシだった気がするな。

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