265 / 535
この馬糞でちょっと試してもらいたいんだ
しおりを挟む
『試したいこと』
それは……
「エマ、あなた魔法は使える?」
私はそう尋ねた。
すると彼女は、体を起こして顔を上げて、でも私の目は見ないようにしながら、
「いえ…分かりません……」
って。
「それは、試したことがないっていう意味?」
「はい……」
「分かった。じゃあ、一つ試してもらおうかな。ちょっとついてきて」
そう言って、私はルイスベントと一緒に奴隷小屋を出た。その後に、エマが続く。
そして裏庭に出ると、
「この馬糞でちょっと試してもらいたいんだ」
と、役所に行った時に乗った馬車の馬がしたウンチを入れたバケツ三つを指差しながら言った。
「え…? あ……、はい……」
戸惑いながら近付いてきたエマに、
「いい? まず私がやってみるから、その呪文をよく聞いてて」
と告げて、一つに堆肥化の魔法を掛けてみせた。
聞き取りやすいように、なるべくゆっくりと、活舌よく。
その瞬間、バケツに入った馬糞はみるみる堆肥へと変化していった。
それを見てもらった上で、
「じゃあ、同じようにやってみて」
エマに向かって指示する。
「は…、はい……」
彼女は戸惑いながらも私の真似をして馬糞に手をかざし、呪文を詠唱する。
…けど、何も起こらない。呪文が正確じゃなかったんだ。だけど私には分かった。彼女の周囲で微生物が活発に動き始めるのが。
「ごめんなさい……」
上手くいかなかったことで彼女は消え入りそうな声で謝った。でも私は気にしない。
「いいよいいよ。いきなりは上手くいかないのが普通だし。それにちゃんと確認できたよ。あなたには魔法の適性がある。私が使えてほしいと思ってる程度の魔法なら使えるようになるよ」
そんな風に言っても、彼女の緊張は決してほぐれない。
でも、今はそれでいい。焦る必要はない。焦ったところでいい結果は得られない。その辺りは、作物も人間も同じだと思う。
ちゃんと効果のある手順を踏んで、それが実際に効果が出てるかどうかを慎重に確認しながら次の段階へと進むんだ。
それをせずに一足飛びに結果を得ようとすると躓いて、結果的に遠回りする羽目になる。私もそれを実際に見てきた。そうやって失敗した人達の姿を。
失敗することが分かってて何もそれと同じことをする必要はない。たとえ回りくどいように思えたって、無駄なように思えたって、そっちの方が私はいい。
そういう手間を掛けずに上手くいく人がいたとしても、それを羨ましいとは思わない。
それは……
「エマ、あなた魔法は使える?」
私はそう尋ねた。
すると彼女は、体を起こして顔を上げて、でも私の目は見ないようにしながら、
「いえ…分かりません……」
って。
「それは、試したことがないっていう意味?」
「はい……」
「分かった。じゃあ、一つ試してもらおうかな。ちょっとついてきて」
そう言って、私はルイスベントと一緒に奴隷小屋を出た。その後に、エマが続く。
そして裏庭に出ると、
「この馬糞でちょっと試してもらいたいんだ」
と、役所に行った時に乗った馬車の馬がしたウンチを入れたバケツ三つを指差しながら言った。
「え…? あ……、はい……」
戸惑いながら近付いてきたエマに、
「いい? まず私がやってみるから、その呪文をよく聞いてて」
と告げて、一つに堆肥化の魔法を掛けてみせた。
聞き取りやすいように、なるべくゆっくりと、活舌よく。
その瞬間、バケツに入った馬糞はみるみる堆肥へと変化していった。
それを見てもらった上で、
「じゃあ、同じようにやってみて」
エマに向かって指示する。
「は…、はい……」
彼女は戸惑いながらも私の真似をして馬糞に手をかざし、呪文を詠唱する。
…けど、何も起こらない。呪文が正確じゃなかったんだ。だけど私には分かった。彼女の周囲で微生物が活発に動き始めるのが。
「ごめんなさい……」
上手くいかなかったことで彼女は消え入りそうな声で謝った。でも私は気にしない。
「いいよいいよ。いきなりは上手くいかないのが普通だし。それにちゃんと確認できたよ。あなたには魔法の適性がある。私が使えてほしいと思ってる程度の魔法なら使えるようになるよ」
そんな風に言っても、彼女の緊張は決してほぐれない。
でも、今はそれでいい。焦る必要はない。焦ったところでいい結果は得られない。その辺りは、作物も人間も同じだと思う。
ちゃんと効果のある手順を踏んで、それが実際に効果が出てるかどうかを慎重に確認しながら次の段階へと進むんだ。
それをせずに一足飛びに結果を得ようとすると躓いて、結果的に遠回りする羽目になる。私もそれを実際に見てきた。そうやって失敗した人達の姿を。
失敗することが分かってて何もそれと同じことをする必要はない。たとえ回りくどいように思えたって、無駄なように思えたって、そっちの方が私はいい。
そういう手間を掛けずに上手くいく人がいたとしても、それを羨ましいとは思わない。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
もういらないと言われたので隣国で聖女やります。
ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。
しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。
しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる