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この馬糞でちょっと試してもらいたいんだ

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『試したいこと』

それは……

「エマ、あなた魔法は使える?」

私はそう尋ねた。

すると彼女は、体を起こして顔を上げて、でも私の目は見ないようにしながら、

「いえ…分かりません……」

って。

「それは、試したことがないっていう意味?」

「はい……」

「分かった。じゃあ、一つ試してもらおうかな。ちょっとついてきて」

そう言って、私はルイスベントと一緒に奴隷小屋を出た。その後に、エマが続く。

そして裏庭に出ると、

「この馬糞でちょっと試してもらいたいんだ」

と、役所に行った時に乗った馬車の馬がしたウンチを入れたバケツ三つを指差しながら言った。

「え…? あ……、はい……」

戸惑いながら近付いてきたエマに、

「いい? まず私がやってみるから、その呪文をよく聞いてて」

と告げて、一つに堆肥化の魔法を掛けてみせた。

聞き取りやすいように、なるべくゆっくりと、活舌よく。

その瞬間、バケツに入った馬糞はみるみる堆肥へと変化していった。

それを見てもらった上で、

「じゃあ、同じようにやってみて」

エマに向かって指示する。

「は…、はい……」

彼女は戸惑いながらも私の真似をして馬糞に手をかざし、呪文を詠唱する。

…けど、何も起こらない。呪文が正確じゃなかったんだ。だけど私には分かった。彼女の周囲で微生物が活発に動き始めるのが。

「ごめんなさい……」

上手くいかなかったことで彼女は消え入りそうな声で謝った。でも私は気にしない。

「いいよいいよ。いきなりは上手くいかないのが普通だし。それにちゃんと確認できたよ。あなたには魔法の適性がある。私が使えてほしいと思ってる程度の魔法なら使えるようになるよ」

そんな風に言っても、彼女の緊張は決してほぐれない。

でも、今はそれでいい。焦る必要はない。焦ったところでいい結果は得られない。その辺りは、作物も人間も同じだと思う。

ちゃんと効果のある手順を踏んで、それが実際に効果が出てるかどうかを慎重に確認しながら次の段階へと進むんだ。

それをせずに一足飛びに結果を得ようとすると躓いて、結果的に遠回りする羽目になる。私もそれを実際に見てきた。そうやって失敗した人達の姿を。

失敗することが分かってて何もそれと同じことをする必要はない。たとえ回りくどいように思えたって、無駄なように思えたって、そっちの方が私はいい。

そういう手間を掛けずに上手くいく人がいたとしても、それを羨ましいとは思わない。

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