何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十

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なんて、それ自体が欺瞞に満ちた考え方だけどさ

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「あ、え~…と……」

奴隷達が置かれてる境遇に想いが至ってしまって胸が締め付けられるのを感じながらも、少し心が戻ってきたのか怯える様子を見せる彼女に話し掛けようとして、私はちょっと混乱してしまった。

普通に話しかけたらかえって困惑させてしまうみたいだから偉そうに話しかけなきゃと思ったんだけど、それ自体に慣れてないから言葉が詰まってしまったんだ。

「うん、あ、ごほん!」

一つ咳払いを入れて頭を整理する。

「で、まず、あなたの名前を聞かせなさい」

我ながら命令口調が板についてないな~、なんて思いつつも、精一杯、<私が思う偉そうな態度>を取る。

リレ達に話しかけていた時はここまでじゃなかったからな~。最初の頃は確かに意識して偉そうにしてたけど、いつの間にか割と普通に、<ただの目上の人物>としての口調になってた気がするし。

私自身、両親や兄に偉そうにされるのが心底嫌で憎んでたから、自分がそれと同じことをしてるっていうのが嫌なんだよね。吐き気さえすることがある。

でも、それが功を奏したのか、

「エマ……です……」

呟くようにして、やっと彼女が答えてくれたんだ。

「エマ、か」

それにホッとしながら彼女の名前を口にすると、エマは申し訳なさそうに俯いてしまった。

「名前を呼ばれるの、慣れてない…?」

「はい……」

私の問い掛けに小さく頷く。

確かに、奴隷を呼ぶ時にはいちいち名前で呼ぶことはあまりない。『お前』とか『そこの奴隷』とか『おい』とかで済まされてしまうことが多いし。

名前で呼ばれるのは、それこそ何か罰を与えられたりするような時とかくらいかな。だから名前で呼ばれるのはあまり嬉しいことじゃないのかもね。

「そんなに緊張しなくていいんだよ。って言っても無理か。とにかく何度も言うけど私はあなたをどうこうしようってつもりはないんだ。それよりも、うちで働く気はない?」

「…え…? でも私は……」

「分かってる。今は役所で使われてるんだよね。でも私も奴隷が欲しくてさ。なんかあなたのことが気に入ったんだよ。私が頼めば譲ってくれるハズだし、私のモノになってよ」

正直こんなこと、ただの自己満足の偽善にすぎないことは分かってる。彼女一人を救ったところで代わりに別の奴隷がまた補充されるだけだ。

でも、目の前の現実を受け止める為には、時にはただの自己満足だって必要だと思うんだ。それによって少しでも自分の気を紛らわすことで自らを支えるって形もあると思う。

なんて、それ自体が欺瞞に満ちた考え方だけどさ。

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