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猫を被った余所行きの私を見ただけで『好きだ』って言ってるのと
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『私は彼と結婚する』
そう断言した時のアルカセリスの絶望的な表情は、正直、同情的な気分にはなる。『可哀想』とも思う。でも、彼女の気持ちを受け入れられない以上は、その事実が大前提なんだよ。
彼女に同情して何か甘い言葉の一つも掛けて、
『もしかしたら私にもチャンスはあるかも』
と思わせたって、それが実現する可能性はない。というのが今の私の正直な気持ちだ。
だって、彼は、ルイスベントは、私の表の顔も裏の顔も、仕事してる時の私の姿も、仕事以外ではまるでダメダメなだらしない私の姿も全部知った上で、貴族の地位を捨ててまで追いかけてきてくれたんだもん。
猫を被った余所行きの私を見ただけで『好きだ』って言ってるのとはわけが違うもん。
相手の一面だけを見て好きになってる場合なら、普段は見せない面が見えた時に『こんな人だとは思わなかった』とか言ってがっかりすることもあるかもしれない。でも、彼はそうじゃないんだ。
それに比べて彼女は、まだ、私のことをよく知らない。そもそも私が彼女のことをよく知らない。それなのに恋愛感情を抱くというのは、私の一面を見ただけでそう感じただけなんじゃないかな。こう言っては何だけど、ただの<憧れ>だと思うんだ。
それじゃ勝負にならないよ。私があなたを選ぶ理由がない。
だけど、それはアルカセリスの責任じゃない。出逢ったタイミングもあるし、人を好きになる気持ちっていうのは理屈じゃないっていう部分も確かにあるし、もしかしたら彼女だって私のダメな部分を知ってもそれでも好きでいてくれるかもしれない。
でも、それでもなんだよ。私が彼に感じているものが、あなたからは感じられない。それはあくまで私の事情であって、彼女が悪い訳じゃない。
だから、もし、彼女が今回のことでモチベーションを失ったとしても、人間である以上はどうしても避けられない部分でもあると思う。自分の感情に囚われて役目を疎かにする人は仲間とは認められないけど、それは彼女のことを『人間としてダメ』と言ってるんじゃないんだ。そういう形で揺らいでしまうのは、人間である以上は避けられない部分でもあるのは分かってる。
いわば、<適性>の問題かな。もしかしたら別の形では、別の仕事なら、一緒に働くこともできるかもしれない。
そういう意味で、彼女を責めるつもりはないんだ。
「……」
けれど、私の言葉を受けて、アルカセリスは打ちのめされたみたいにうなだれて、何も言わずに部屋を出ていったのだった。
そう断言した時のアルカセリスの絶望的な表情は、正直、同情的な気分にはなる。『可哀想』とも思う。でも、彼女の気持ちを受け入れられない以上は、その事実が大前提なんだよ。
彼女に同情して何か甘い言葉の一つも掛けて、
『もしかしたら私にもチャンスはあるかも』
と思わせたって、それが実現する可能性はない。というのが今の私の正直な気持ちだ。
だって、彼は、ルイスベントは、私の表の顔も裏の顔も、仕事してる時の私の姿も、仕事以外ではまるでダメダメなだらしない私の姿も全部知った上で、貴族の地位を捨ててまで追いかけてきてくれたんだもん。
猫を被った余所行きの私を見ただけで『好きだ』って言ってるのとはわけが違うもん。
相手の一面だけを見て好きになってる場合なら、普段は見せない面が見えた時に『こんな人だとは思わなかった』とか言ってがっかりすることもあるかもしれない。でも、彼はそうじゃないんだ。
それに比べて彼女は、まだ、私のことをよく知らない。そもそも私が彼女のことをよく知らない。それなのに恋愛感情を抱くというのは、私の一面を見ただけでそう感じただけなんじゃないかな。こう言っては何だけど、ただの<憧れ>だと思うんだ。
それじゃ勝負にならないよ。私があなたを選ぶ理由がない。
だけど、それはアルカセリスの責任じゃない。出逢ったタイミングもあるし、人を好きになる気持ちっていうのは理屈じゃないっていう部分も確かにあるし、もしかしたら彼女だって私のダメな部分を知ってもそれでも好きでいてくれるかもしれない。
でも、それでもなんだよ。私が彼に感じているものが、あなたからは感じられない。それはあくまで私の事情であって、彼女が悪い訳じゃない。
だから、もし、彼女が今回のことでモチベーションを失ったとしても、人間である以上はどうしても避けられない部分でもあると思う。自分の感情に囚われて役目を疎かにする人は仲間とは認められないけど、それは彼女のことを『人間としてダメ』と言ってるんじゃないんだ。そういう形で揺らいでしまうのは、人間である以上は避けられない部分でもあるのは分かってる。
いわば、<適性>の問題かな。もしかしたら別の形では、別の仕事なら、一緒に働くこともできるかもしれない。
そういう意味で、彼女を責めるつもりはないんだ。
「……」
けれど、私の言葉を受けて、アルカセリスは打ちのめされたみたいにうなだれて、何も言わずに部屋を出ていったのだった。
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