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それにしたってその有様じゃ百年の恋も冷めるっての!!

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知らない人が見たら本当にただの物乞いにしか見えない格好になったキラカレブレン卿をそのまま宿舎に上げる訳にもいかず、私は彼を連れて公衆浴場へと引き返した。

「カリンさん……その人は……?」

アルカセリス達はさすがに訝しんで問い掛けてきたけど、

「ごめん! 私の昔の仲間! とにかくお風呂入れてくるから、先に休んでて!」

って応えるだけで精一杯だった。

「もう! いくら何でも酷すぎだよ!」

「申し訳ありません。どうしても早くあなたに会いたくて…」

嬉しいこと言ってくれるけど、それにしたってその有様じゃ百年の恋も冷めるっての!!

……冷めないけどさ。

そう。冷めない。冷めなかった。とんでもなく汚くて臭い、あの高潔で清廉な貴族としての彼の姿なんてどっこにもひとっつもなかったのに、私はがっかりもドン引きもしなかった。さすがに臭いには驚かされたけど、それだけだ。

公衆浴場に戻ると、営業を終了して、閉店作業をしているところだった。

『ああ、間に合わなかったか……!』

どうしようかと考えてると、私と私が連れてる彼の姿を見た店主が、

「スクスミさん! どうしたんですか? その汚い人は…!」

って。

私はさすがに苦笑いを浮かべながら。

「彼は私の元仲間で、急いで私のところに駆けつけたから、お風呂にも入れてないんです。でも、もう営業終了しましたよね…?」

と問い掛ける。すると店主は、

「いえ、一般向けの営業は終わりですけど、貸し切り客用の営業はしてますよ。今日は予約は入ってませんでしたから、良かったら入りますか?」

だって。

なんという僥倖!

「お願いします!」

「感謝します」

と二つ返事で、私のとキラカレブレン卿のとを合わせてギリギリ手持ちで足りた貸し切り用の代金を払って、男湯に入っていった。

ただ、焦ってたから気が付かなかったんだけど、<一般営業終了後の貸し切り営業>って、要するにラブホテルみたいなものだったらしいんだよね。

道理で、キラカレブレン卿を連れて男湯に入ろうとしたときに店主がな~んか意味ありげに笑ってたと思ったわよ。

でもまあそれはそれとして、

「ほら! さっさと脱いで!」

脱衣所で剥ぎ取るみたいにして彼の服を脱がせた時も、私は、当たり前みたいにそうしてた。男性を裸にしようとしてるってことにも気付いてなかったと思う。

でもそれは、相手が彼だったからというのもあるのかな。

彼だったから、私も自然にしてられたのかもしれない。

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