上 下
236 / 535

どうしてこんなタイミングで現れるのよ、バカぁ……!

しおりを挟む
『ご無沙汰してます。カリン』

不意に私の耳に届いてきた、懐かしい声。

突然私の視界に飛び込んできた、見覚えのある姿。

ボロボロの、殆ど物乞いみたいな格好してても、私にはすぐに分かってしまった。忘れたくても忘れられる筈のない、『あなた』。



どうしてこんなタイミングで現れるのよ、バカぁ……!



ドラマだったら、もっと盛り上がるタイミングっていうものがあると思う。もっともっと引っ張って、焦らして焦らして『ここぞ!』というタイミングで現れる方がもっとずっと盛り上がると思う。

だけど、私は別にドラマの主人公を演じてるつもりないし、自分の人生を<他人の娯楽>として切り売りしたい訳でもない。だから、突然こんな形で現れた彼に戸惑いながらも、複雑な気持ちになりながらも、ホッとしてしまうのを止めることもできなかった。

「キラカレブレン卿……!」

勝手に彼の名前が口に出てしまう。

そう、何の前触れもなく私の前に現れたのは、ルイスベント、いや、キラカレブレン卿だったんだ。

そしてこの時の私は、情緒不安定になってたことも手伝ってか、完全にいつもの自制心を失ってたと思う。普段なら決して人前ではこんなことしなかった。

恥ずかしくて。

なのにもう、体が勝手に動いてた。宿舎の前に立って優しく微笑みかける彼に向かって、弾かれるみたいにして縋りついてた。

ちくしょう……やっぱり私、あなたのことが好きだったんだ……

こんなにも……

『別に大して好きじゃないから』

『諦めてしまえる程度の相手だから』

と自分に言い聞かせて気にしないようにしてたのに。自分の<気持ち>に振り回されて後先考えない行動をしてしまわないように平気なフリをしてきたのに、よりにもよって私が精神的に不安定になってる時に狙ったように現れるとか……

そんなの……そんなの……

<運命>ってやつを感じちゃうでしょうがぁ……!!

「…どうしてここに…? それに、その恰好……」

涙声になりながら、彼の胸に顔を埋めながら、ついそんなことを問い掛けてしま……

「―――――って、クサっっ!! なにこれ、めっちゃクサい!?」

鼻の穴にでっかいハンマーを突っ込まれてそれで脳ミソをぶっ叩かれるような<衝撃>を感じるほどの臭気に、それまでの気分は暴風に吹かれた木の葉のように吹っ飛んでた。

鼻を押さえながら彼を見上げると、苦笑いを浮かべた彼が、

「申し訳ありません。取るものも取り敢えず駆け付けようと思ったので、湯浴みも着替えも忘れてました……」

だって。

なんじゃそりゃぁああぁぁっっ!!?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...