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どうしてこんなタイミングで現れるのよ、バカぁ……!
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『ご無沙汰してます。カリン』
不意に私の耳に届いてきた、懐かしい声。
突然私の視界に飛び込んできた、見覚えのある姿。
ボロボロの、殆ど物乞いみたいな格好してても、私にはすぐに分かってしまった。忘れたくても忘れられる筈のない、『あなた』。
どうしてこんなタイミングで現れるのよ、バカぁ……!
ドラマだったら、もっと盛り上がるタイミングっていうものがあると思う。もっともっと引っ張って、焦らして焦らして『ここぞ!』というタイミングで現れる方がもっとずっと盛り上がると思う。
だけど、私は別にドラマの主人公を演じてるつもりないし、自分の人生を<他人の娯楽>として切り売りしたい訳でもない。だから、突然こんな形で現れた彼に戸惑いながらも、複雑な気持ちになりながらも、ホッとしてしまうのを止めることもできなかった。
「キラカレブレン卿……!」
勝手に彼の名前が口に出てしまう。
そう、何の前触れもなく私の前に現れたのは、ルイスベント、いや、キラカレブレン卿だったんだ。
そしてこの時の私は、情緒不安定になってたことも手伝ってか、完全にいつもの自制心を失ってたと思う。普段なら決して人前ではこんなことしなかった。
恥ずかしくて。
なのにもう、体が勝手に動いてた。宿舎の前に立って優しく微笑みかける彼に向かって、弾かれるみたいにして縋りついてた。
ちくしょう……やっぱり私、あなたのことが好きだったんだ……
こんなにも……
『別に大して好きじゃないから』
『諦めてしまえる程度の相手だから』
と自分に言い聞かせて気にしないようにしてたのに。自分の<気持ち>に振り回されて後先考えない行動をしてしまわないように平気なフリをしてきたのに、よりにもよって私が精神的に不安定になってる時に狙ったように現れるとか……
そんなの……そんなの……
<運命>ってやつを感じちゃうでしょうがぁ……!!
「…どうしてここに…? それに、その恰好……」
涙声になりながら、彼の胸に顔を埋めながら、ついそんなことを問い掛けてしま……
「―――――って、クサっっ!! なにこれ、めっちゃクサい!?」
鼻の穴にでっかいハンマーを突っ込まれてそれで脳ミソをぶっ叩かれるような<衝撃>を感じるほどの臭気に、それまでの気分は暴風に吹かれた木の葉のように吹っ飛んでた。
鼻を押さえながら彼を見上げると、苦笑いを浮かべた彼が、
「申し訳ありません。取るものも取り敢えず駆け付けようと思ったので、湯浴みも着替えも忘れてました……」
だって。
なんじゃそりゃぁああぁぁっっ!!?
不意に私の耳に届いてきた、懐かしい声。
突然私の視界に飛び込んできた、見覚えのある姿。
ボロボロの、殆ど物乞いみたいな格好してても、私にはすぐに分かってしまった。忘れたくても忘れられる筈のない、『あなた』。
どうしてこんなタイミングで現れるのよ、バカぁ……!
ドラマだったら、もっと盛り上がるタイミングっていうものがあると思う。もっともっと引っ張って、焦らして焦らして『ここぞ!』というタイミングで現れる方がもっとずっと盛り上がると思う。
だけど、私は別にドラマの主人公を演じてるつもりないし、自分の人生を<他人の娯楽>として切り売りしたい訳でもない。だから、突然こんな形で現れた彼に戸惑いながらも、複雑な気持ちになりながらも、ホッとしてしまうのを止めることもできなかった。
「キラカレブレン卿……!」
勝手に彼の名前が口に出てしまう。
そう、何の前触れもなく私の前に現れたのは、ルイスベント、いや、キラカレブレン卿だったんだ。
そしてこの時の私は、情緒不安定になってたことも手伝ってか、完全にいつもの自制心を失ってたと思う。普段なら決して人前ではこんなことしなかった。
恥ずかしくて。
なのにもう、体が勝手に動いてた。宿舎の前に立って優しく微笑みかける彼に向かって、弾かれるみたいにして縋りついてた。
ちくしょう……やっぱり私、あなたのことが好きだったんだ……
こんなにも……
『別に大して好きじゃないから』
『諦めてしまえる程度の相手だから』
と自分に言い聞かせて気にしないようにしてたのに。自分の<気持ち>に振り回されて後先考えない行動をしてしまわないように平気なフリをしてきたのに、よりにもよって私が精神的に不安定になってる時に狙ったように現れるとか……
そんなの……そんなの……
<運命>ってやつを感じちゃうでしょうがぁ……!!
「…どうしてここに…? それに、その恰好……」
涙声になりながら、彼の胸に顔を埋めながら、ついそんなことを問い掛けてしま……
「―――――って、クサっっ!! なにこれ、めっちゃクサい!?」
鼻の穴にでっかいハンマーを突っ込まれてそれで脳ミソをぶっ叩かれるような<衝撃>を感じるほどの臭気に、それまでの気分は暴風に吹かれた木の葉のように吹っ飛んでた。
鼻を押さえながら彼を見上げると、苦笑いを浮かべた彼が、
「申し訳ありません。取るものも取り敢えず駆け付けようと思ったので、湯浴みも着替えも忘れてました……」
だって。
なんじゃそりゃぁああぁぁっっ!!?
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