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自分が受け入れてもらえてる実感が確かにあった

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あ、そうそう。余談ついでにつけ足しておくけど、私の両親は、若い頃はかなりヤンチャだったしパッと見ではDQNっぽくも見えつつ、大人になってからは仕事はまあ真面目にやってたし愛想は良かったから、周囲の評判はそれほど悪くなかったんだよね。

むしろ、

「見た目よりはいい人じゃん」

みたいな評価を受けることが多かったと思う。

だけど、それがまた私にとってはムカつく話だった。子供としてすぐそばで見てたから分かる。そういうのもあの人達の計算の内だったってことが。

『昔はヤンチャしてて、でも更生して今は真面目にやってて、子供に対しても熱心な立派な大人になった』

ってのを演じてたんだってことが。

そして周囲も、外面さえ良ければ、『良い親』って評価して、その裏側にあるものを見ようとしなかった。

で、そんな猿芝居のしわ寄せは子供である私と兄に来て、兄は両親の<本性>をしっかりと受け継いで、

『悪いことは未成年のうちにやっとかなくちゃな』

的な、分かりやすいと言えばあまりにも分かりやすい不良になっていった。

そんな兄も、私に対しては何かと威圧的に振る舞い、ちょっと気に入らないことがあれば容赦なく殴る蹴るで、まるで獣のように『自分の方が強いんだから俺の言うことを聞け!』って調子で私を服従させようとした。

内心では反発してたけど表面上は従順なフリをしつつ、小学校に上がる頃にはもう、

『いつか殺してやる』

とまで思ってたよ。

でも、中学の時に教授と出逢って、教授の計らいで寮のある私立高校に進むことになって、家を出て、そこでいろんな人と出逢って、私は両親や兄とはまったく別の生き方を選ぶことができるようになった。

思えば、その時の経験も、今、役に立ってるのかもしれないな。

『それまでとは全く異なる環境の中に置かれて、そこに馴染んでいく』

っていうさ。



なんて、まるで連想ゲームみたいにいろんなことを考えてしまってた私だけど、アルカセリス達の歓迎については、楽しい時間を過ごさせてもらったと思う。

自分が受け入れてもらえてる実感が確かにあった。

だけど同時に、それだからこそ、

『ああ…私はやっぱり異邦人なんだな……』

という実感も深くなっていく気がした。

以前に、この公衆浴場で一緒になった高齢女性に言われたみたいに、ここに骨を埋めるつもりで頑張れば根を下ろすことは確かにできるだろうけど、それと同時に、

『どこまで行っても私はこの世界の人間じゃない』

っていう感覚は、消えるどころかしっかりと根付いてしまってるんだって分かってしまうんだ。

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