上 下
228 / 535

私が生まれたところではそういう習慣がなかったから

しおりを挟む
ガルフフラブラ王国は、王族と貴族が国民を支配してるという点では他の国と同じだけど、とにかく支配階級と国民との間が乖離してるって言うか、国民からしたらそれこそ<雲の上の人達>っていう感じらしい。そんな支配を受け入れてる辺り、<日本人的>と言うかなんと言うか、見た目もそうだし、親しみを感じるなあ。

なんてことを思ってると、お風呂からあがって軽くデザートでもってことで、フルーツの盛り合わせを誰かが注文したみたいだった。公衆浴場に喫茶店みたいなものが併設されてるんだ。で、公衆浴場の休憩室で軽く食事もできるらしい。

そうしてデザートをみんなでいただきながらお喋りしてると、アルカセリスが不意に、

「私の幼名は、セリスって言うんです。セリス・クラトキ。カリンさんの幼名とかってあるんですか?」

それは、ガルフフラブラ王国の庶民が親しくなった相手に持ちかける話題の典型らしい。自分の幼名を明かすというのが。もっとも、異性に対してそれをするのは<恋の告白>と同義らしいから、ブルイファリドをはじめとした男性はそんな話題は持ち掛けてこなかったな。

すると他のコ達も興味津々って感じで私を見た。

私は自分が少し困ったような笑顔になるのを感じつつ、

「私が生まれたところではそういう習慣がなかったから、生まれた時からカリン・スクスミだよ」

と応えさせたもらった。

するとみんなは「わあ」って感じでお互いに顔を見合わせたりしつつ、

「やっぱりそうなんですね? 何となくそうかなって思ってました!」

だって。

それに合わせるように他のコも、

「他の国じゃ名前が変わらないところもあるって聞いてたけど、ホントなんだ…!」

とかなんとか。

そう言えば日本でも、幼名と元服とかしてからの名前が変わるっていう習慣があったな。詳しくは忘れたけど、子供の頃に『○○丸』とかって名前にするのって、割とこうあんまり上品な意味じゃなくて、神様が子供を取り返しに来ないようにわざと穢かったり下品だったりする意味の名前を付ける風習があったという話をちらっと聞いた覚えがある。

もっとも、ここではちょっと意味が変わってて、今の支配階級が実質的な支配をし始めた頃に、自分達の様式に合わせた名前を名乗るように命じたのが始まりらしいな。

だけど、そうじゃなかった頃の、自分達のルーツを忘れないようにする為に、幼い頃には昔の様式の名前を名乗るのが風習になってるみたい。

それを明かすのは、同性同士の場合は<親愛の情>、異性の場合は<恋慕>ってことみたいだね。

しおりを挟む

処理中です...