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私、家の中って言うか、一人の時の顔ってホントに酷いんだよ

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「カリンさんは結婚とかしないんですか?」

「こらこら、そういう質問は失礼だよ!」

「え~? でも気になるじゃない。こんな素敵な女性ひとなのに」

「だよね~。私が男だったらほっとかないな~」

とかなんとか、お風呂につかりながらも、アルカセリス達はキャアキャアとかしましい。

そんな様子に、私は思わず頬が緩むのを感じてしまった。『可愛いなあ…♡』って。

確かに礼儀とか女性としての嗜みとかという点じゃ褒められたものじゃないんだろうけど、人間らしくてすごくいい。貴族の子女とかだと、どうしても型にはまって仮面を被った<お人形>って感じの女性も多いから。

それが良いとか悪いとかって話じゃない。ただ、私には無理っていうだけ。

だから、

「貴族の三男坊っていう人でいいなって思える人がいたんだけど、私、貴族の奥さんとかにはなれるタイプじゃないから」

と、自然とそんな風に言えてしまった。

すると、『申し訳ないことを訊いてしまった』っていう空気が広まって、

「ごめんなさい…」

って、『結婚とかしないんですか?』と訊いてきたコが、シュンとなった。他のコ達も、気まずい様子で黙ってしまう。

失礼なようでいて、悪い子じゃないんだっていうのがすごく分かった。

「いいよいいよ。気にしないで。私ももう踏ん切り付いてるから」

ニッコリと笑顔でそう言ってあげると、今度はホッとした空気が広がる。そこに私はさらに付け加えた。

「結婚っていうのもやっぱり<縁>だと思うんだ。気持ちだけでは決め手にはならない。彼のことは今でも好きだけど、人間には<分>というものがあるからね」

「身分違いってことですか…?」

「似てるけど、ちょっと違うかな~。それよりは、<向き不向き>って言った方が近いかもしれない」

「向き不向き、ですか?」

「うん。私の場合、<貴族の妻>には到底なれるタイプじゃないからね」

「そうなんですか?」

「そうは思えないです。綺麗だし、すごく立派な女性だし」

「あはは♡ ありがと。そう言ってもらえるのは嬉しいけど、それはちょっと買いかぶり過ぎかな。それに、仕事用の顔と、家の中での顔って違うでしょ? 私、家の中って言うか、一人の時の顔ってホントに酷いんだよ。しかも家の中でまで上品にいるなんてできないし。

だから貴族の家に入ったりしたらそれこそ多分耐えられない。そんなことになったら旦那さんにも迷惑かけちゃうし、好きだったらなおさら迷惑かけたくないもんね」

「それは何となく分かります」

「私も分かる~」

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