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父や母だけじゃなくて、みんなが幸せになれるようにと思って

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「ごめんなさい。妹が失礼なことを……」

お風呂までよばれてさっぱりした後で詰所へと帰る途中、ティンクフルムが申し訳なさそうにそう言ってきた。でも私はむしろ笑顔で、

「失礼だなんて、とんでもない。彼女のおかげでますますやる気が出てきたよ。必ず成功させなきゃってね」

って応えさせてもらった。そんな私に、彼は言う。

「僕も、父や母の助けになりたくて役人を目指してるんです。いえ、父や母だけじゃなくて、みんなが幸せになれるようにと思って。だけど現実は厳しくて、試験は受からないし……

だけどスクスミさんの仕事が上手くいけば、それで少しはみんなも楽になりますよね…?」

縋るようなその言葉に、彼の想いが見えた気がした。彼は今、正式な役人としてじゃなく、役人見習いの手伝いとして詰所で働いてた。彼のように役人を目指す人は多いけど、採用される為の試験はとても難しくて、せいぜい十人に一人くらいしか受からないらしい。でも諦めずに、試験も目指しながらも、試験の一部が免除になる現場採用枠を目指して頑張ってるそうだった。

そうだ。頑張ってるのは私だけじゃない。みんな頑張ってるんだ。目立たないかもしれないけど、華やかじゃないかもしれないけど、みんな頑張ってる。きっと、ルイスベントも、アウラクレアも、バンクハンマ達も、そして、メロエリータも。

離れてたって私達は仲間だ。同じ目標に向かって同じ時間を過ごした仲間だ。その仲間に恥じない仕事をしなくちゃね。私も。

『よし、いける。私はまだまだ頑張れる……』

握り締めた自分の手を見詰め、私はそんなことを思う。

それからティンクフルムに向き直って、

「そうだね。少なくとも努力が報われるようにはなるんじゃないかな。報われない努力を続けるのって、辛いもんね。働きに見合う収穫は得られるようになるよ。そうなる瞬間を私は何度も見てきた。適切なやり方をすれば土は必ず応えてくれる。そうならないのは、やり方がマズいからなんだ。

まあ、そのこと自体はティンクフルム達も気付いてると思うけど、<適切なやり方>っていうのがただ見付けられてないだけだよ。それを見付けられる手伝いを、私はしに来たんだ。

さあ、やらなきゃいけないことはこれからも山積みだよ。もたもたしてる時間はない」

そう言い切った私を、ティンクフルムが熱っぽい目で見てくれてるのが分かった。それに応えなきゃね。



結果は、数日で出た。

「もう芽がこんなに大きく…!?」

畑に出たティンクラウラと彼女の両親が、唖然とした表情で呟く。

そして私は言ったのだった。

「こういうことです。どうですか?」

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