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何度でも何度でも、それが必要なことなら説明しなきゃ
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「ウン…を畑に混ぜ込むとか、そんな……」
ティンクフルムを伴って彼の実家に赴き、両親の前で大まかな説明をすると、返ってきたのは困惑どころか明らかに訝しんで迷惑そうな表情だった。
いつものこととはいえ、正直、『またか』という気分にはなる。だけど、それじゃ駄目なんだ。私にとっては常識でも、知らない人は知らないし、そこで丁寧に対応するのを怠ると、結局は上手くいかない。
『急いては事をし損じる』
『急がば回れ』
昔の人もそれで散々苦労したんだと思う。だからそんな言葉が生まれたんだろう。何度でも何度でも、それが必要なことなら説明しなきゃ。理解してもらわなきゃ始まらない。個人も説得できなくて、組織が説得できる訳がない。
「心配要りません。排泄物をそのまま撒く訳じゃないんです。<堆肥>といって、作物に必要な養分をたっぷりと含んだものに魔法で変えてから土に混ぜ込むんです。理屈としては、ミミズが土を食べてその糞がいい土になるというのと同じようなものです」
厳密には違う部分もあるけど、イメージしやすいと思うし、そう説明させてもらう。だけど、
「そうは言われてもねえ……」
いかにも気弱そうでただ『真面目に作物に向き合ってます』っていう感じのティンクフルムの両親に向かって、私は説明を繰り返させてもらった。でも、二人は渋い顔だ。そんな私達の様子を、ティンクラウラがハラハラした様子で見てる。
私の胸で大泣きしてからは慕ってくれてるみたいで、それで応援してくれてるんだ。彼女の為にもこんなところで躓いてはいられない。
「それでは、実物を見ていただきましょう。牛糞はありますね?」
「あ、ああ、もちろん…」
ここでは犂を引かせるのに牛を使うから、牛糞は豊富にある。ただしそれも、人間のと同様に回収されて処分されるけど。
回収前で残されてた牛糞のところに行き、私は、堆肥化の魔法ですべて堆肥に変えた。
ねっとりとした牛糞の山だったそれは見た目にも明らかにただの土のようになる。
「どうですか? たぶん、ただの土の匂いしかしなくなったと思います」
私の言葉に、まず、ティンクラウラが近付いていって、ふんふんと鼻を鳴らした。すると、
「ホントだ! 臭くない!」
と笑顔で声を上げた。
「まさか…?」
彼女の両親も半信半疑ながら近付いていって、同じようにふんふんと鼻を鳴らす。
「信じられない! 土の匂いだ! それもすごくいい土の…!」
「これが魔法の力なの!?」
驚く二人に、私は告げる。
「はい。魔法によって作られたこの土があれば、収穫量は桁違いに増えます。今まではそれをただ捨ててたんです」
ティンクフルムを伴って彼の実家に赴き、両親の前で大まかな説明をすると、返ってきたのは困惑どころか明らかに訝しんで迷惑そうな表情だった。
いつものこととはいえ、正直、『またか』という気分にはなる。だけど、それじゃ駄目なんだ。私にとっては常識でも、知らない人は知らないし、そこで丁寧に対応するのを怠ると、結局は上手くいかない。
『急いては事をし損じる』
『急がば回れ』
昔の人もそれで散々苦労したんだと思う。だからそんな言葉が生まれたんだろう。何度でも何度でも、それが必要なことなら説明しなきゃ。理解してもらわなきゃ始まらない。個人も説得できなくて、組織が説得できる訳がない。
「心配要りません。排泄物をそのまま撒く訳じゃないんです。<堆肥>といって、作物に必要な養分をたっぷりと含んだものに魔法で変えてから土に混ぜ込むんです。理屈としては、ミミズが土を食べてその糞がいい土になるというのと同じようなものです」
厳密には違う部分もあるけど、イメージしやすいと思うし、そう説明させてもらう。だけど、
「そうは言われてもねえ……」
いかにも気弱そうでただ『真面目に作物に向き合ってます』っていう感じのティンクフルムの両親に向かって、私は説明を繰り返させてもらった。でも、二人は渋い顔だ。そんな私達の様子を、ティンクラウラがハラハラした様子で見てる。
私の胸で大泣きしてからは慕ってくれてるみたいで、それで応援してくれてるんだ。彼女の為にもこんなところで躓いてはいられない。
「それでは、実物を見ていただきましょう。牛糞はありますね?」
「あ、ああ、もちろん…」
ここでは犂を引かせるのに牛を使うから、牛糞は豊富にある。ただしそれも、人間のと同様に回収されて処分されるけど。
回収前で残されてた牛糞のところに行き、私は、堆肥化の魔法ですべて堆肥に変えた。
ねっとりとした牛糞の山だったそれは見た目にも明らかにただの土のようになる。
「どうですか? たぶん、ただの土の匂いしかしなくなったと思います」
私の言葉に、まず、ティンクラウラが近付いていって、ふんふんと鼻を鳴らした。すると、
「ホントだ! 臭くない!」
と笑顔で声を上げた。
「まさか…?」
彼女の両親も半信半疑ながら近付いていって、同じようにふんふんと鼻を鳴らす。
「信じられない! 土の匂いだ! それもすごくいい土の…!」
「これが魔法の力なの!?」
驚く二人に、私は告げる。
「はい。魔法によって作られたこの土があれば、収穫量は桁違いに増えます。今まではそれをただ捨ててたんです」
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