上 下
216 / 535

何度でも何度でも、それが必要なことなら説明しなきゃ

しおりを挟む
「ウン…を畑に混ぜ込むとか、そんな……」

ティンクフルムを伴って彼の実家に赴き、両親の前で大まかな説明をすると、返ってきたのは困惑どころか明らかに訝しんで迷惑そうな表情だった。

いつものこととはいえ、正直、『またか』という気分にはなる。だけど、それじゃ駄目なんだ。私にとっては常識でも、知らない人は知らないし、そこで丁寧に対応するのを怠ると、結局は上手くいかない。

『急いては事をし損じる』

『急がば回れ』

昔の人もそれで散々苦労したんだと思う。だからそんな言葉が生まれたんだろう。何度でも何度でも、それが必要なことなら説明しなきゃ。理解してもらわなきゃ始まらない。個人も説得できなくて、組織が説得できる訳がない。

「心配要りません。排泄物をそのまま撒く訳じゃないんです。<堆肥>といって、作物に必要な養分をたっぷりと含んだものに魔法で変えてから土に混ぜ込むんです。理屈としては、ミミズが土を食べてその糞がいい土になるというのと同じようなものです」

厳密には違う部分もあるけど、イメージしやすいと思うし、そう説明させてもらう。だけど、

「そうは言われてもねえ……」

いかにも気弱そうでただ『真面目に作物に向き合ってます』っていう感じのティンクフルムの両親に向かって、私は説明を繰り返させてもらった。でも、二人は渋い顔だ。そんな私達の様子を、ティンクラウラがハラハラした様子で見てる。

私の胸で大泣きしてからは慕ってくれてるみたいで、それで応援してくれてるんだ。彼女の為にもこんなところで躓いてはいられない。

「それでは、実物を見ていただきましょう。牛糞はありますね?」

「あ、ああ、もちろん…」

ここでは犂を引かせるのに牛を使うから、牛糞は豊富にある。ただしそれも、人間のと同様に回収されて処分されるけど。

回収前で残されてた牛糞のところに行き、私は、堆肥化の魔法ですべて堆肥に変えた。

ねっとりとした牛糞の山だったそれは見た目にも明らかにただの土のようになる。

「どうですか? たぶん、ただの土の匂いしかしなくなったと思います」

私の言葉に、まず、ティンクラウラが近付いていって、ふんふんと鼻を鳴らした。すると、

「ホントだ! 臭くない!」

と笑顔で声を上げた。

「まさか…?」

彼女の両親も半信半疑ながら近付いていって、同じようにふんふんと鼻を鳴らす。

「信じられない! 土の匂いだ! それもすごくいい土の…!」

「これが魔法の力なの!?」

驚く二人に、私は告げる。

「はい。魔法によって作られたこの土があれば、収穫量は桁違いに増えます。今まではそれをただ捨ててたんです」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

処理中です...