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だからここはひとつ、初心に帰ろう

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「本当にそういう形でないとその効果は得られないのですか? 他にもっと簡便で、かつ同様の効果を得られる方法はないのですか?」

畑の収穫量を上げる為の農業改革に乗り出した私だったけど、その為に行った会議では、まず、各担当者達の説得に四苦八苦させられた。これまで行ってきた方法を基に私が提案した案について、基本的にはさっきのセリフが投げかけられる。

この国では、ウンチの処分について完全に仕組みが確立してて、個々人が魔法で処理して各々が川とかに捨ててる他の国とは違って、システムとして成立してしまってるんだ。それを変更するとなると、関係各所に通達して様々なことを変更しなければいけなくなる。これは結構大変なことだ。

『思った以上に手強いな……』

会議は毎回、その辺りで煮詰まってしまう。私としては合理的なプランを論理的に説明してるつもりなんだけど、その大元になる仕組みが彼らには理解できないから、ピンとこないんだ。

この辺りの根回しは、以前はメロエリータがやってくれてたことでもある。彼女の口八丁手八丁で役人達も手玉に取り、丸め込んでしまってたんだ。だから私は、彼女のお膳立てで殆どが決まってたところに『こうしますよ』と説明しに行くだけで済んでた。

だけど今では、そういうことも私がしないといけない。メロエリータの存在の大きさを改めて思い知らされてしまう。

「すいません。私達がもう少しフォローできればいいんですが……」

具体的な進展もなく終わった会議の後で、ブルイファリドが申し訳なさそうに声を掛けてくる。

「いえいえ、役所が手強いのはどこでもだいたい同じですから。私の力不足なだけです。やっぱり、いきなり大きく形を変えようとするのがマズいんでしょうね。とにかく、説得の為の材料をまず揃えないといけないと改めて思いました」

正直、ここまで上手くいきすぎてたと思う。メロエリータの活躍におんぶにだっこで来たこともあるんだろう。その辺りは私自身、反省しないといけないと思った。

だからここはひとつ、初心に帰ろう。

「だから、ティンクフルムの実家に改めて協力を要請します。そこでまず結果を出して、それを材料に交渉します」

そうだ。具体的な実績を見せてやらないといけないんだ。

ティンクフルムの実家の畑の土を入れ替えるだけ入れ替えたけど、そこから先は堆肥を確保するルートを確立してからと思ってた。バンクレンチ達がいないせいで気軽に使える手駒が少なくてその辺りの手順を省いていきなり本丸に切り込もうとした私が思い上がってた。他所でいくら実績を積んでたって、ここの人達は実際にそれを見てきた訳じゃない。訝しんで当然だ。

堆肥は、宿舎のトイレに溜められたウンチを基にして用意する。そして私自身が畑を耕して、作物を作るんだ。いつしか、畑には出てても、やってることと言えば土の状態を確かめたりとか作物の状態を確かめたりとかばかりで、耕したりとかいうのは殆どバンクレンチ達に任せきりだったのを、反省したのだった。

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