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なるほど。なるべく人目につかないように深夜に回収する訳だ
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ティンクフルムの話から、取り敢えず何か因縁があって、この国の奴隷は蔑みだけじゃなく、憎しみの対象でもあるらしい。これはますます私が余計な口出しをしない方がいい感じだろうな。
それを留意して、でもその上でとにかく必要があるかぎりは、処分場へは行かなきゃいけないんだよね。
そんな訳で翌朝、って言うか、まだほぼ深夜と言ってもいい時間に、私は起きて汲み取りの業者が来るのを待っていた。
すると、きいきいと荷車を引く音がして、松明を掲げた影がいくつか夜闇の中を行きかうのが見えてくる。
なるほど。なるべく人目につかないように深夜に回収する訳だ。あまり人がいると何されるか分からないしね。
憎しみの対象ならなおさら。
そうして私が様子を窺ってると、荷車の一つが近付いてきた。だけど松明の明かりが私を照らしたのが見えたのか、それを手にした人影がビクッと体を竦ませて立ち止まるのが分かった。
この反応。リレ達と同じだな。
松明の明かりが、その人影の顔をぼんやりと闇の中に浮かび上がらせている。まるでミイラのように顔の殆どを包帯で覆った、たぶん若い女性だ。体格からすると成人はしてると思うけど。
怯えてる気配が伝わってくる。まるで待ち構えるみたいに私が立ってたからだろうな。
こういう時は、大抵、ロクなことにならないんだろう。顔を覆う包帯は、その時の傷でも隠す為だろうか。
だから私の方から声を掛ける。なるべく穏やかな感じで。
「心配しなくていいよ。私はあなたの仕事を見たいだけ。何もしない。だから、ね。急がないと夜が明けちゃうよ」
戸惑ってる気配もすごく分かる。だから私は、少し下がってみた。するとようやく、躊躇いながらも前へと足を踏み出してきた。
そして私の前を通り過ぎて、トイレの汲み出し口のところに荷車を止める。私の様子を窺いつつ、蓋を開けて、柄の長い柄杓で中のものを汲み出し始めた。
『大変な仕事だな……』
都市部では下水道が普及し、バキュームカーすらあまり見かけなくなった日本よりはまだマシかもしれないけど、やっぱりここでもこういうのは忌仕事として、奴隷とかに押し付けられているんだって感じる。
四日毎ということでそんなにたくさんは溜まってないみたいで五分ほどで作業は終わり、女性は、私の視線から逃げるみたいにその場を立ち去ろうとする。
だけど私は、
「ごめんね。今日はこのまま処分場まで一緒に行かせて。私は、王様の命令で動いてるの。だから、ね」
と再度声を掛けた。
そんな私に向けられた目が泣きそうになってるのが、松明の明かりに浮かび上がっていたのだった。
それを留意して、でもその上でとにかく必要があるかぎりは、処分場へは行かなきゃいけないんだよね。
そんな訳で翌朝、って言うか、まだほぼ深夜と言ってもいい時間に、私は起きて汲み取りの業者が来るのを待っていた。
すると、きいきいと荷車を引く音がして、松明を掲げた影がいくつか夜闇の中を行きかうのが見えてくる。
なるほど。なるべく人目につかないように深夜に回収する訳だ。あまり人がいると何されるか分からないしね。
憎しみの対象ならなおさら。
そうして私が様子を窺ってると、荷車の一つが近付いてきた。だけど松明の明かりが私を照らしたのが見えたのか、それを手にした人影がビクッと体を竦ませて立ち止まるのが分かった。
この反応。リレ達と同じだな。
松明の明かりが、その人影の顔をぼんやりと闇の中に浮かび上がらせている。まるでミイラのように顔の殆どを包帯で覆った、たぶん若い女性だ。体格からすると成人はしてると思うけど。
怯えてる気配が伝わってくる。まるで待ち構えるみたいに私が立ってたからだろうな。
こういう時は、大抵、ロクなことにならないんだろう。顔を覆う包帯は、その時の傷でも隠す為だろうか。
だから私の方から声を掛ける。なるべく穏やかな感じで。
「心配しなくていいよ。私はあなたの仕事を見たいだけ。何もしない。だから、ね。急がないと夜が明けちゃうよ」
戸惑ってる気配もすごく分かる。だから私は、少し下がってみた。するとようやく、躊躇いながらも前へと足を踏み出してきた。
そして私の前を通り過ぎて、トイレの汲み出し口のところに荷車を止める。私の様子を窺いつつ、蓋を開けて、柄の長い柄杓で中のものを汲み出し始めた。
『大変な仕事だな……』
都市部では下水道が普及し、バキュームカーすらあまり見かけなくなった日本よりはまだマシかもしれないけど、やっぱりここでもこういうのは忌仕事として、奴隷とかに押し付けられているんだって感じる。
四日毎ということでそんなにたくさんは溜まってないみたいで五分ほどで作業は終わり、女性は、私の視線から逃げるみたいにその場を立ち去ろうとする。
だけど私は、
「ごめんね。今日はこのまま処分場まで一緒に行かせて。私は、王様の命令で動いてるの。だから、ね」
と再度声を掛けた。
そんな私に向けられた目が泣きそうになってるのが、松明の明かりに浮かび上がっていたのだった。
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