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それはおあつらえ向き。なら、汲み取りに来た人と一緒に処分場へ行けばいいね

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「ごめんね。休んでるところにお邪魔して」

「いえ。大丈夫です。それで、何の御用でしょう?」

男性の一人暮らしの部屋にいきなり押し掛けたにしては随分と綺麗に整頓された部屋の真ん中で、ティンクフルムはひどく畏まった様子で座ってた。

部屋の床は、畳ではないんだけど、竹の繊維を編み込んで作られたラグが敷かれてて、玄関で靴を脱いで床に座る形だった。

これまで、基本的には部屋の中でも靴のままという、それこそ西洋式のスタイルで、でも私が使う部屋だけはカーペットを敷いて、靴を脱いでっていう形にしてもらってた。だけどここではわざわざそういう風にする必要ないから助かるな。

もっとも、王族や貴族の家は靴のままっていうスタイルだけどね。

まあそれはさておいて、本題だ。

「えと、トイレの汲み取りは、いつ来るのかなと思って」

その質問はさすがに想像してなかったのか、ティンクフルムは、一瞬、きょとんとなって、それから、

「あ…ああ、はい。四日に一回ですね。ちょうど、明日来る予定です」

だって。

「おお、それはおあつらえ向き。なら、汲み取りに来た人と一緒に処分場へ行けばいいね」

私は手を合わせて腰を浮かせてテンション高く声を上げた。

でもそんな私に、ティンクフルムは、

「だけど、それはやめておいた方がいいんじゃないですか…?」

って、苦い顔で言う。

その様子に、ピンときた。

「来るのが、奴隷だから?」

「……」

私の言葉に、彼は黙って頷いた。

そしてやっぱり苦い顔で、語り出した。

「この国の奴隷は、昔、僕達の祖先と一緒に国造りをした者達の子孫だそうです。でも、北の蛮族との戦争になった時、あいつらは、僕達の祖先を裏切ったそうです。

その時、僕達の祖先と一緒に戦ってくれたのが今の王族や貴族達で、蛮族を退けた後、王族や貴族が裏切りの罰としてあいつらを奴隷へと落としたんです……」

そう淡々と説明してくれるティンクフルムだったけど、その目の奥にははっきりと憎しみの炎が揺らめいてるのが見えた。

もう何百年も前の話を、さも見てきたように彼は語るけど、それを聞いてた私は、正直、眉に唾してたかな。

なにしろ、その手の話には大抵、伝わってない部分とか、後から改編された部分とかがあることが多いから。

それに、王様や貴族達の様子を直接見た私の印象として、あんまり素直に信じちゃいけない感じがしたんだよね。

なんて言うか、あれならむしろムッフクボルド共和国の人らの方がよっぽど信用できるっていう気がするんだ。

こういう言い方は好きじゃないけど。

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