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大変に疲れたでしょうから、たくさん召し上がってくださいね

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お風呂でさっぱりして、見知らぬお婆さんに励まされて、私は何となくいい気分になってた。辛いことや苦しいことがあるのは<普通>だ。そういうのが何もない、他人が<自分にとって耳の痛い話>をしてくることさえない世界なんて、たぶん、存在しない。たとえ異世界に行ったとしても、ね。

その程度のことでいちいちムキになってたら、生きていくのなんてきっと苦痛しかないだろうな。

私は、この世界に来てそれをとことん思い知らされた。ネローシェシカが亡くなったことも、仲間達とバラバラになってしまったことも、全部そうだ。

だけどそれをいくら嘆いても何も変わらない。自分は救われない。誰かが救ってくれることを、世界の方が変わってくれることを期待したってただ絶望することになるだけだ。自分を救えるのは結局は自分しかいないし、世界は自分に合わせて変わってくれないから、自分が世界と折り合うしかない。

それを改めて思い起こさせてくれる。

だから私は、こんなことではめげてやらないんだ。誰かが私を凹まそうとしていても、その通りにはなってやらない。一時的には凹んでも、いつまでも挫けててやらない。

そういうものなんだよ。



役人詰所に戻ると、ブルイファリドやティンクフルムもさっぱりした顔で私を迎えてくれた。その日に<出勤>してた他の職員もテーブルに着いてて、そこには、質素だけどお客をもてなそうという気持ちが込められてるのが分かる食事が並べられていた。

ティンクラウラと、メリサ、リルムメリサが用意してくれたものだった。

リルムメリサは事務職の職員で、料理好きの主婦でもある。見た目は童顔で小柄で若く見えるけど、私よりも年上で、ブルイファリドの幼馴染かつ妹的な存在だったらしい。ちなみに旦那さんは建築職人だそうだ。同じく幼馴染の。

ふむ。なるほど。リルムメリサと旦那さんとの仲を察して自分は身を引いたって感じかな。

なんてことを、明るく会話を交わす二人の様子を見て勝手に想像したりする。

ところで料理の方だけど、全体的に<洋食>っぽいのかな。純粋な<和食>でもないけど、かと言って完全なフランス料理とかイタリア料理的なものでもない。

ここガルフフラブラ王国は、地球で言うとトルコ辺りって感じの地理的な位置にあたる国だから料理的にもそれっぽいのも混じってるのかもしれない。

これはあれだ。『日本人が外国の料理を自分の好みに合うようにアレンジして取り入れちゃった』やつだ。昨夜、ティンクラウラがご馳走してくれた筑前煮っぽいのもそれだと思う。

「今日は皆さん、大変に疲れたでしょうから、たくさん召し上がってくださいね」

と、リルムメリサとティンクラウラがにこやかに言ってくれたのだった。

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