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それは、これから行く役人詰所で話していただければ結構です

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<奴隷の輸出>なんてセンシティブな問題にまで私が関われるとは思わないから、まずはとにかく、ファルトバウゼン陛下からの依頼に応じて、作物の収穫量を上げなくちゃ。

で、取り敢えずは、ガルフフラブラ国王に謁見する。

でも、玉座にふんぞり返っていかにも偉そうにした王様の態度には、正直、げんなりしたけどね。

「遠路はるばる大儀であった。貴公を遣わしてくれたファルトバウゼン国王には深く感謝する」

とか、まあ儀礼上必要なことは最低限わきまえてるみたいだけど、それを言ってる時の様子も、完全に上辺だけだなあというのがありありと分かる感じだった。

とは言え、こっちもその辺りはもう慣れてるから、

「我がファルトバウゼン国王の御名を汚さぬよう、身命を賭して事に当たります」

なんて、仰々しく応えさせてももらった。

ただ、クレフリータ、いや、メロエリータがいないから、これまで彼女に任せきりだったことも私がしなきゃいけないのは、少々気が重い。上手くいくかどうか。

ゲームとかなら、普通、どんどん仲間が増えていって『さあこれからだ!』って感じなんだろうけど、仲間を失って一からって、ほんとどうなのよって感じ。

なんて言うか、あれだな。ムッフクボルド共和国の件までのことは、長い長い<チュートリアル>だったと考えればいいのかもしれないな。そして、ここからが<本番>だ。

ってな訳で、さっそく<準備に取り掛かる為の準備>に取り掛かるとしますか。

「こちらでの担当大臣とはお会いできますか?」

ガルフフラブラ国王陛下との謁見の後、案内役の若い貴族の男性に問い掛けてみる。だけど、

「担当大臣? いえ、我が国にはそのような者はおりませんが?」

などと、意外な返事。

「え? でもじゃあ私はこれからどなたと今後の予定についてお話しさせていただけばよろしいんですか?」

焦りながらも努めて平静に尋ねる。

すると彼は、

「それは、これから行く役人詰所で話していただければ結構です。国王陛下は結果だけを求めておられます。努力は臣民がするものです。私達は彼らを統べるだけでよいのです」

だって。

うわあ……

それってつまり、自分達はただ胡坐をかいて国民が汗水たらして作ったものをひたすら消費するだけってことだよね?

ここの支配階級は、大多数の国民とはルーツが別の民族だからか、完全に『国民そのものが自分達の道具』っていう認識なんだ。

こりゃ、今まで私が見てきた国の支配階級が可愛く見えるくらいだぞ。少なくとも彼らは、『国民と共に国を作り上げていく』という意識はあった気がするし。

やれやれ…大変なところに来ちゃったかなあ……

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