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私達の正体は既にバレている。今さら隠し立てしても始まらんし
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「ふむ、なるほどな。ちょうどいい。お前、ここに<間諜>として残れ。陛下には私から話しておいてやる」
「って、ええ? そんな簡単でいいの!?」
帰ってきたクレフリータにバンクレンチが結婚したいって言ってると告げると、彼女は事も無げにそう言い放っただけだった。
なんなの? そんな軽い話なの?
戸惑う私に彼女は言う。
「元々それは十分に想定されていた話だ。驚くには値せん。そうなった時の対処も既に用意されている。今言ったとおり、間諜として残ればいいのだ」
「でも、それって危険じゃない?」
「心配要らん。ただの連絡要員だ。こちらとも裏で話をつけておけば問題ない」
「そういうものなの?」
「そういうものだ。それに、私達の正体は既にバレている。今さら隠し立てしても始まらんし、この国とてそれを承知で私達を招聘したのだ。劇のようにそのようなことも知らずに招き入れて易々と情報を盗まれるような国はそうそうない。それぞれ渡していい情報、そうでない情報を管理して対処している。そうやって裏でやり取りしてるのだ。
無論、本当に渡したくない情報に触れようとすれば危険もあるが、バンクレンチは根が正直で嘘が下手だからな。それができるタイプの人間ではないし、向いてない人間にそういうことをさせるほど、我がファルトバウゼン王国は愚鈍ではない」
「……じゃあ、本当に問題ないのね?」
「ああ、心配要らん」
ということで、バンクレンチには間諜としてこの国に残ってもらうことになった。
「何から何までお世話になりっぱなしで、このご恩をどう返せばいいのかも分かりません。でも、もし、何か俺の力が必要になった時には声を掛けてください。どこへでも駆けつけます」
次の国に移ることになった日、バンクレンチはそう言って私の手をしっかりと掴み、少し涙ぐんだ。
だけどそれでも晴れやかな顔で、奥さんになった女の子と一緒に、私達を見送ってくれた。
抜けたバンクレンチの後任には、いつぞやの暗殺未遂事件の時に重傷を負ったコが収まることになった。
「そっか。転勤続きが長くなると、こういうこともあるよね」
少し寂しさも感じつつ、私は幸せそうな二人の姿を思い出し、しみじみと呟いた。
「そうですね。人の出逢いというのは不思議なものです。それまでの自分の考え方や大切にしていたものが一瞬で大きく変わってしまうこともある」
馬車に揺られながらルイスベントが応える。しかも、私の目を見詰めながら、
「それは、私もそうなんですよ?」
って。
「……!」
彼の言おうとしてることが察せられてしまって、私は顔がカアッと熱くなるのを感じたのだった。
「って、ええ? そんな簡単でいいの!?」
帰ってきたクレフリータにバンクレンチが結婚したいって言ってると告げると、彼女は事も無げにそう言い放っただけだった。
なんなの? そんな軽い話なの?
戸惑う私に彼女は言う。
「元々それは十分に想定されていた話だ。驚くには値せん。そうなった時の対処も既に用意されている。今言ったとおり、間諜として残ればいいのだ」
「でも、それって危険じゃない?」
「心配要らん。ただの連絡要員だ。こちらとも裏で話をつけておけば問題ない」
「そういうものなの?」
「そういうものだ。それに、私達の正体は既にバレている。今さら隠し立てしても始まらんし、この国とてそれを承知で私達を招聘したのだ。劇のようにそのようなことも知らずに招き入れて易々と情報を盗まれるような国はそうそうない。それぞれ渡していい情報、そうでない情報を管理して対処している。そうやって裏でやり取りしてるのだ。
無論、本当に渡したくない情報に触れようとすれば危険もあるが、バンクレンチは根が正直で嘘が下手だからな。それができるタイプの人間ではないし、向いてない人間にそういうことをさせるほど、我がファルトバウゼン王国は愚鈍ではない」
「……じゃあ、本当に問題ないのね?」
「ああ、心配要らん」
ということで、バンクレンチには間諜としてこの国に残ってもらうことになった。
「何から何までお世話になりっぱなしで、このご恩をどう返せばいいのかも分かりません。でも、もし、何か俺の力が必要になった時には声を掛けてください。どこへでも駆けつけます」
次の国に移ることになった日、バンクレンチはそう言って私の手をしっかりと掴み、少し涙ぐんだ。
だけどそれでも晴れやかな顔で、奥さんになった女の子と一緒に、私達を見送ってくれた。
抜けたバンクレンチの後任には、いつぞやの暗殺未遂事件の時に重傷を負ったコが収まることになった。
「そっか。転勤続きが長くなると、こういうこともあるよね」
少し寂しさも感じつつ、私は幸せそうな二人の姿を思い出し、しみじみと呟いた。
「そうですね。人の出逢いというのは不思議なものです。それまでの自分の考え方や大切にしていたものが一瞬で大きく変わってしまうこともある」
馬車に揺られながらルイスベントが応える。しかも、私の目を見詰めながら、
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って。
「……!」
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