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きっと一生、わだかまりとして残るだろうな

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それから数日後、王太后様が床に臥したという知らせが、公国内を駆け巡った。

『床に臥す』

それは、『権力の座から下りた』、いや、『下ろされた』時に使われる隠語のようなものだった。

もちろん、実際に病気とかで床に臥す場合もあるんだけど、それはむしろ珍しいくらいなのかな。

『王太后様、大丈夫なのかな……』

顔も合わせたことはないけど、私は何となく心配してしまった。なにしろ、そうやって実権を奪われた人がそのまま本当に病気になってしまうことは、少なくないから。『床に臥す』っていう言い方は、元々、そういうことがよくあったから使われ出したみたい。

気概を失った人が一気に弱るって感じで。

もちろん、畑を踏み荒らさせたことについては今も許してない。『とんでもないことをする人だ!』っていう憤りは確かにある。きっと一生、わだかまりとして残るだろうな。

だけど私はこれにばかり拘ろうとは思ってない。もう過ぎたことだ。

その上で、一人の人間の結末としては、どこか寂しいものも感じてしまうんだ。



それからさらに一週間が過ぎて、私達の仮住まいの屋敷に、陛下からの使者が来た。

呼び出しだった。

そして私達は、町のはずれにある瀟洒なお屋敷の前に来ていた。陛下の私邸とはまるで違う、確かに<やんごとなき御方の住まい>という感じだった。

しかもそこには、タレスリレウトの姿が。

「あなたも呼び出されたの?」

私の問い掛けに、

「ええ。みなさんも、ですか……?」

と応えた彼の声の調子と表情に、明らかな戸惑いがあった気がした。

「そうですか……陛下は……」

そんな風に呟く彼と私達を、屋敷から出てきた、上品そうな物腰の、いかにもベテラン執事って感じの高齢の男性が迎えてくれた。

そして入った玄関ホールには、陛下の姿も。

「お呼び立てしてしまってすいません。実は、母に会ってやっていただきたくて……」

ああ、やっぱり……

なんとなく予感はあった。こういうことなんじゃないかって。

そうして、執事に案内されて入った部屋は、品のいい調度品でまとめられた、すごくいい感じの部屋だった。いかにも権力者の傲慢さみたいなものがギラギラしたのを想像していたのに、拍子抜けするくらい<優しい>空間だった。

だけどもっと私を戸惑わせたのが、その部屋に置かれた大きなベッドに横になる、失礼だけど『可愛らしい』感じの高齢の女性の姿だった。

『…え? まさかこの人が……?』

今まで聞いていたいろいろ話から想像してたのとは、まったく違ってたんだ。

「母です…」

陛下が、落ち着いた口調で私達に向かってそう言ったのだった。

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