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つまり今回の件は、そのことが原因だと…?

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「父とハンスの母は互いに惹かれ合い、結果、ハンスが生まれることとなった。だがそれを知った母は怒り狂い、多数の人間に働きかけて二人を引き離したのだという。

建前としては血族至上主義は否定されていたものの当時も後宮というものはあって、そこにいる女官らとの間で子を生したのなら、従来の価値観から抜け出せきれていなかった母とてまだ許せたらしいが、卑しい身分のただの召使いが相手となればプライドが許さなかったのだろうな。

かくして引き離された二人だったが、互いの気持ちが離れることはなく、人を介してではあったが連絡を取り合い、父は、ハンスの母の支援と保護に務めたのだそうだ。

なにしろ、母は、暗殺者まで差し向けてハンスの母を亡き者にしようとしたとも聞く。

その攻防は父が亡くなるまで続くこととなった。

しかし、父の突然の死に母も困惑、消沈し、それどころではなくなったらしい。とは言え、いつまたハンスの母の命を狙うとも限らない。故にその間、私は父の意を酌み、独自にハンスと彼の母を守るべく手を尽くし、父の政治活動に協力してくれていたペテルソンエス家の協力を得られることとなった。

そして先王であった叔父の死によって私は王の座につき、その権限でもってハンスをペテルソンエス家の養子とし、それによってハンスの母もペテルソンエス家の親類とすることで母の介入を封じたのだ。

だが、母はそれがさぞかし気に食わなかったようで、度々、嫌がらせのようなことを私に対してもしてくるようになった……」

陛下がそこまで話して言葉を区切った時、クレフリータが、

「つまり今回の件は、そのことが原因だと…?」

と問い掛けた。

陛下は彼女の言葉にゆっくりと頷き、そして私に向き直って大きく頭を下げた。

「元はといえば私の家庭内のいざこざが原因だったのだ。私があなた方に肩入れしているというので、母は私に対する嫌がらせとして軍に力を持つ貴族に働きかけ、<訓練>と称して畑を荒らさせたらしいというのが事の顛末だ。

身内の不始末について、心よりお詫び申し上げる」

そんな風に謝られて、私は逆に慌ててしまった。仮にも国家の首長たる陛下が、ある意味では敵国にもなろうかという国の人間である私達に頭を下げたなんてことが公になったら余計に面倒なことになりかねない。

「陛下、それは違います。私は今回のこともそんなに気にしてません。災害のようなものだと思って受け流してるんです。気分が悪いのは事実でも、ことさら話を大きくするつもりもありませんでした。だから陛下がそのようにされる必要はないんです」

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