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直系の王族に対してはさすがにできないような不敬な真似を
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「あなた方もご存知かもしれないが、この私邸は、私の父が<病死>した場所でもある。だから普通は縁起が悪いとして住み続けるような者は珍しい。私の母も、滅多に寄り付こうとしない。
だが、私にとってはそれがいいのだ。だからこそ、一人になりたい時にはここに来る。それにここは、私の家系のルーツとなる屋敷でもあるからな」
「ルーツ?」
訊き返した私に、陛下は小さく頷いて応えてくれた。
「ああ、私の家系は、本来、このメトラカリオス公国直系の王族ではなかった。建国時には既に本家から離れた傍系だったのだ。しかし、近隣諸国と連携し、<ムッフクボルド共和国>となった時、血族至上主義は、建前上、否定されることになった。
とは言え、やはり何百年と続いた慣習はそう簡単には消えてなくなるものでもない。私の父は、若い頃、王族の傍系であることで謂れのない屈辱を味わわされたそうだ。王族所縁の者でありながらこのような小さな屋敷に住んでいることも、散々物笑いの種にされたらしい。
王族への妬みだな。直系の王族に対してはさすがにできないような不敬な真似を、傍系である父に対して行うことでそれまでの憂さを晴らそうとしたのだろう。
父は、それらの行いに対して敢えて歯向かうこともなく黙々と政治を学び、その頃、国政の中枢にいた貴族の末娘だった母と結婚して縁故を作り、徐々に政治に関わるようになっていったそうだ。
だから正直言って、母との結婚には愛はなかったらしい。それに対して母は父を愛しており、末娘であるが故に多少の我儘も許されて、かつ、傍系とはいえ王族に縁の深い父との結婚は、相手の貴族にとっても損な話ではなかったわけだ。
さりとて、母を愛してはいなかった父にとってその結婚は打算以外の何物でもなく、政治の中心にいた貴族との縁故を活かし国政へと進み出た父はそれまでの鬱憤を晴らすかのように辣腕をふるって大臣にまで上り詰め、ついには子供ができなかった当時の王の指名を受けてメトラカリオス公国の王の座を射止めたのだ。
これには、母も狂喜乱舞したそうだよ。なにしろ、有力貴族の子女と言えど所詮は余りもののような末娘だった自分が王妃になるのだからな。
ただ、それでも父は母のことを愛せず、一応は夫の務めとして母との間に私をもうけたもののそれ以後は殆ど母の下には帰らず、この私邸に閉じこもって、一人、執務をこなしていたそうだ。
そしてその時、父の身の回りの世話をしていたのが、マウレハンス・タレスリレウトの母だったのだ。彼女の献身的な姿に父がほだされたのも無理はなかったのかもしれないな」
だが、私にとってはそれがいいのだ。だからこそ、一人になりたい時にはここに来る。それにここは、私の家系のルーツとなる屋敷でもあるからな」
「ルーツ?」
訊き返した私に、陛下は小さく頷いて応えてくれた。
「ああ、私の家系は、本来、このメトラカリオス公国直系の王族ではなかった。建国時には既に本家から離れた傍系だったのだ。しかし、近隣諸国と連携し、<ムッフクボルド共和国>となった時、血族至上主義は、建前上、否定されることになった。
とは言え、やはり何百年と続いた慣習はそう簡単には消えてなくなるものでもない。私の父は、若い頃、王族の傍系であることで謂れのない屈辱を味わわされたそうだ。王族所縁の者でありながらこのような小さな屋敷に住んでいることも、散々物笑いの種にされたらしい。
王族への妬みだな。直系の王族に対してはさすがにできないような不敬な真似を、傍系である父に対して行うことでそれまでの憂さを晴らそうとしたのだろう。
父は、それらの行いに対して敢えて歯向かうこともなく黙々と政治を学び、その頃、国政の中枢にいた貴族の末娘だった母と結婚して縁故を作り、徐々に政治に関わるようになっていったそうだ。
だから正直言って、母との結婚には愛はなかったらしい。それに対して母は父を愛しており、末娘であるが故に多少の我儘も許されて、かつ、傍系とはいえ王族に縁の深い父との結婚は、相手の貴族にとっても損な話ではなかったわけだ。
さりとて、母を愛してはいなかった父にとってその結婚は打算以外の何物でもなく、政治の中心にいた貴族との縁故を活かし国政へと進み出た父はそれまでの鬱憤を晴らすかのように辣腕をふるって大臣にまで上り詰め、ついには子供ができなかった当時の王の指名を受けてメトラカリオス公国の王の座を射止めたのだ。
これには、母も狂喜乱舞したそうだよ。なにしろ、有力貴族の子女と言えど所詮は余りもののような末娘だった自分が王妃になるのだからな。
ただ、それでも父は母のことを愛せず、一応は夫の務めとして母との間に私をもうけたもののそれ以後は殆ど母の下には帰らず、この私邸に閉じこもって、一人、執務をこなしていたそうだ。
そしてその時、父の身の回りの世話をしていたのが、マウレハンス・タレスリレウトの母だったのだ。彼女の献身的な姿に父がほだされたのも無理はなかったのかもしれないな」
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