176 / 535
着ているものをすべて脱ぎ棄てて大声で叫びたくなる時もあります
しおりを挟む
自分の父親が不審な死を遂げた、いや、それを<不審>と感じるのは私だけの感覚なのかもだけど、そういう屋敷によくいられるなと老婆心ながら思ってしまう。
でも、そういう形で王様が亡くなったりすることさえそんなに珍しくもない世界なら、別に気にする必要もないのかもね。
「……え?」
だけど厳しいチェックを経てようやく屋敷に入った私は、また自分の目を疑った。そこにいたのは、本当に庶民のそれと変わらない質素な服をまとって私達を出迎えてくれる陛下の姿だったから。
「驚いたかね? だがこれが私人としての私の姿なのだよ。大仰な恰好は窮屈で好きじゃないんだ」
ちょっと子供っぽささえある、どこか悪戯っぽく笑う陛下に、私は急に親近感を感じてしまってた。
ああ、でもでも、それ自体が私達を油断させる為の演出かもしれないし、そのまま真に受けるのは危険なのか。
そう、私達は、本来、それだけの世界に生きてるんだ。いくら<いい人>そうに見えても信じちゃいけないっていう世界にね。
私が暢気に構えてるように見えるからそんな感じはしないかもだけど。
ただ、一緒に来たクレフリータが、
「お気持ち、よく分かります。私も時々、着ているものをすべて脱ぎ棄てて大声で叫びたくなる時もあります」
だって。その一言に陛下は顔をほころばせて、
「分かってくれる者がいて嬉しいよ」
と、今度はホッとしたように微笑んだ。
「まあ、かけたまえ。見ての通り食事も質素なものだが、今は我が国も苦しいのでな」
そう言って陛下が手で示したテーブルの上には、明らかに雪瓜をメインにしたと思しき、まさに庶民が食べてるのと変わらない料理が並べられていた。
だけど私はむしろ嬉しかった。陛下がこうやって私の作った作物を振る舞ってくれるのが。
「私は自分の作った作物が好きですから、ありがたいです」
それが素直な気持ちだった。
そうして、私と、クレフリータと、ルイスベントと、バンクレンチとが席について、<晩餐会>が始まった。
と言っても、なにぶん、気取らない格好の陛下と庶民感満点の料理の数々だから、普段の食事と何にも変わらなかったけど。
でも、いいな。それがいい。
「今日は君らを私個人として労う為にこの席を設けさせてもらった。『大いに』と言うにはいささか質素な宴ではあるが、その分、気取らずに楽しんでもらえたら私も嬉しい」
陛下のそんな言葉が嘘じゃないと分かるくらい<普通>だった。
そして。軽くお酒も入って雰囲気が完全に和らいだ頃、陛下が語り始めたのだった。
でも、そういう形で王様が亡くなったりすることさえそんなに珍しくもない世界なら、別に気にする必要もないのかもね。
「……え?」
だけど厳しいチェックを経てようやく屋敷に入った私は、また自分の目を疑った。そこにいたのは、本当に庶民のそれと変わらない質素な服をまとって私達を出迎えてくれる陛下の姿だったから。
「驚いたかね? だがこれが私人としての私の姿なのだよ。大仰な恰好は窮屈で好きじゃないんだ」
ちょっと子供っぽささえある、どこか悪戯っぽく笑う陛下に、私は急に親近感を感じてしまってた。
ああ、でもでも、それ自体が私達を油断させる為の演出かもしれないし、そのまま真に受けるのは危険なのか。
そう、私達は、本来、それだけの世界に生きてるんだ。いくら<いい人>そうに見えても信じちゃいけないっていう世界にね。
私が暢気に構えてるように見えるからそんな感じはしないかもだけど。
ただ、一緒に来たクレフリータが、
「お気持ち、よく分かります。私も時々、着ているものをすべて脱ぎ棄てて大声で叫びたくなる時もあります」
だって。その一言に陛下は顔をほころばせて、
「分かってくれる者がいて嬉しいよ」
と、今度はホッとしたように微笑んだ。
「まあ、かけたまえ。見ての通り食事も質素なものだが、今は我が国も苦しいのでな」
そう言って陛下が手で示したテーブルの上には、明らかに雪瓜をメインにしたと思しき、まさに庶民が食べてるのと変わらない料理が並べられていた。
だけど私はむしろ嬉しかった。陛下がこうやって私の作った作物を振る舞ってくれるのが。
「私は自分の作った作物が好きですから、ありがたいです」
それが素直な気持ちだった。
そうして、私と、クレフリータと、ルイスベントと、バンクレンチとが席について、<晩餐会>が始まった。
と言っても、なにぶん、気取らない格好の陛下と庶民感満点の料理の数々だから、普段の食事と何にも変わらなかったけど。
でも、いいな。それがいい。
「今日は君らを私個人として労う為にこの席を設けさせてもらった。『大いに』と言うにはいささか質素な宴ではあるが、その分、気取らずに楽しんでもらえたら私も嬉しい」
陛下のそんな言葉が嘘じゃないと分かるくらい<普通>だった。
そして。軽くお酒も入って雰囲気が完全に和らいだ頃、陛下が語り始めたのだった。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
もういらないと言われたので隣国で聖女やります。
ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。
しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。
しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる