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奴隷達と同じ服を着て、奴隷達と一緒に荷車を引いて、王都の人々の冷淡な視線を受けて

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『どんどん行くぞー!』

と言っても、雪瓜の収穫が終わった途端に結構な雪になって、まあ殆ど何もできなかったけどね。

それでも、堆肥集めについては季節は関係ない。私は、陛下の指示で用意された奴隷達と一緒に、再度、堆肥の回収と運搬と保管について何か問題がないか確認する為に、雪が吹き付ける中、王都を巡った。

「ノーラカリン様がこのようなことを…!」

奴隷達のリーダーとして私が指名したトゥラという若い男性が恐縮したように声を掛けてくる。だけど私は笑顔を向けて、

「これも私の仕事だよ。あなたたちの働きぶりをちゃんと自分の目で確かめるっていうね」

その通りだった。と言っても、正式な仕事じゃないけどさ。私が私である為に自分自身に課してる仕事って言ったらいいのかな。

『奴隷をただ使役して分かったような顔をしてたんじゃダメだ。きちんと現場の仕事を自分の目で確認して理解しないと私は自分がやるべきことを見失う』

って感じでね。

私は、完全な善人でもなければ完全な悪人でもない、どこまでも凡庸な普通の人間だ。油断してればすぐ慢心して目的を見誤って道を踏み外すような凡夫だ。だからこそ、何の為に自分が何をしようとしてるのかを忘れたくないんだ。それを忘れないようにする為には、こうやって、奴隷達にやってもらってる仕事の内容を確かめないといけないんだ。

幸い、ムッフクボルド共和国では奴隷はいないことになってるという建前からか、他の国のように露骨な迫害はない。理不尽に暴力を振るわれたり、虐げられたりもしない。ただ、それでも、明らかに自分達よりは下に見ているという冷ややかな視線は感じた。奴隷達と一緒に堆肥を入れる桶を持って回ってたから、私のこともそうだと思ったんだろう。

でもいい。今はそれがここでの常識だから、いくら私が憤っても何も動かない。奇異に思われるだけだ。

何百年か後に奴隷制度が解消されることに向けての道筋がつけられればそれでいい。

奴隷達と同じ服を着て、奴隷達と一緒に荷車を引いて、王都の人々の冷淡な視線を受けて、それでも、

「ご協力、感謝します」

と、堆肥化したウンチを桶に入れてもらう度に頭を下げて、ひたすら歩いた。

屋敷に戻ると、

「お疲れ様です」

って、私と同じように他の奴隷達のグループと一緒に堆肥集めに出てくれてたルイスベントが迎えてくれた。彼は本来、貴族の子息なのに、こんなことまでしてくれる。それが嬉しい。

もちろん、

「お疲れ様です!」

って感じでバンクレンチ達が笑顔を向けてくれるのも嬉しい。

そして私達は、自分達で手分けして用意した夕食を囲み、一日の疲れを癒したのだった。

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