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ただ立場が違うだけ。それを凹ましていい気分になるのは

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陛下から謹慎を言い渡された<おじさん貴族>は、青い顔をして謁見の間を出ていった。

それを見送った陛下は、

「先ほど余が口にしたことは事実である。余は貴公らの真の姿を承知した上で助力を申し出た。故にこれからも変わらずに励んでもらいたい」

だって。

まあ、尊大と言えば尊大な物言いだけど、基本的には王様っていうのはこういうものだっていうのは私ももう慣れてるし、こうやって大勢の臣下の前での発言っていうのは割と体裁を目的にしたものが多いのも分かってる。私を利用した発言とかも正直なところどこまで本気なのかっていうのも承知してる。

もちろん、利用したのは確かなんだろうけど、こちらも利用される為に来たんだからそれについては別に気にならない。

で、案の定、別室に招かれた時には、

「先ほどは臣下達の手前ああ言ったが、貴公らの働きには大変に感謝している。助力を要請したのは本心からなのだ。非礼をお詫びする」

って。

だから私も、

「陛下のお立場は私も十分に理解しているつもりです。どうぞ顔をあげてください。それに私達も利用されることは承知の上でした。これからももちろん働かせていただきます」

って応えさせてもらった。

だけど気になるのはさっきの<おじさん貴族>かな。クレフリータもそれは同じだったみたいで、屋敷に戻ってから、

「パテスヘルアル卿については、フォローが必要かもしれん。なので私はこれからお会いしに行こうと思う」

とのことだった。<パテスヘルアル>というのがさっきの<おじさん貴族>の名前だ。正直、私としてもあの姿を見た後だと、気になっていたのも事実だ。なんか可哀想だなって。

「じゃあ、私も一緒に行っていいかな?」

「うん? それは別に構わんが、カリンの手を煩わすほどのことでもないと思うぞ」

というクレフリータに続けて、ルイスベントも、

「そうですね。あれはパテスヘルアル卿自身が招いたことです。カリン殿が気にすることはありません」

さらにはバンクレンチも、

「そうですよ、社長。あいつのは自業自得ってもんじゃありませんか。放っときゃいいんですよ」

とかなんとか。それに対して私は、素直な気持ちを言わせてもらった。

「確かにそうかもしれないけどさ、パテスヘルアル卿だって自分の信念があってのことだと思うんだ。私達が<正義の味方>で、彼が<悪の手先>って訳じゃないよ。ただ立場が違うだけ。それを凹ましていい気分になるのは、私は好きじゃない」

もちろん私だってパテスヘルアル卿の言い草にはいい気はしなかった。それは事実だ。でも、彼だって本当に私達の活躍を盛り上げる為の<舞台装置>な訳じゃない。生きてる人間なんだ。

そのことを私は忘れたくないんだ。

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