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<復讐>が楽しいなんて、おかしな話だけどさ

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お偉い方々のそういうのについてはクレフリータに任せて、私はとにかく現場のことに集中した。ルイスベントやバンクレンチ達も手際よく作業をこなしてくれる。本来なら貴族や兵士なのに、すっかり今の仕事に慣れてしまってる。

ルイスベントは、必要な資材の発注と管理。バンクレンチとその部下達は、資材の運搬とかの雑務。みんなてきぱきと動いてくれて本当に助かる。

もちろんその分、報酬だってはずむ。受け取った報酬で酒場とかに繰り出すのがバンクレンチ達の楽しみだった。だけどそれも、ただ遊びに行くんじゃない。酒場とかはいろんな情報が入ってくるところだ。農民もそれなりに出入りしてたりするからどこの農地で何があったとか、誰が何を言ってたとか、仕事を探してる人間がいるとか、そういう情報を仕入れては私やクレフリータに報告してくれるんだ。

それもすごく助かってる。

最初のうちは、たいてい、いきなり現れた余所者である私達を警戒して訝しげにしてるっていう話が主だった。バンクレンチ達も初めの頃はそういうのを耳にする度にキレそうになって危うくケンカになりかけたりってこともあったらしいけど、今ではすっかりそれにも慣れてしまったみたい。

「最初はカリンさんのことを『胡散臭い女だ』とか言ってた連中が次々手の平を返すのが面白くて痛快で。今じゃそれが楽しみで酒場に行ってるようなものですよ!」

「そうそう。しかも俺達がカリンさんの部下だと分かると奢ってくれたりとか」

「女の子の俺達を見る目も変わるよな!」

なんてことを嬉しそうに口々に話すバンクレンチと部下達の様子を見てると、私もなんだか嬉しくて。特に、<暗殺未遂事件>の時に酷い重傷を負って命を落としかけた彼なんて、殆ど甥っ子とか見てる感じだった。

『もう、<仕事仲間>っていうよりも<家族>だよね。これじゃ』

って、これまでにも何度も思ったことを改めて考える。

だけどこれもいつかは、解散することになるんだろうな。ムッフクボルド共和国が、<悪魔のパン騒動>を理由に戦争を起こそうとしてるんだから、その<理由>を潰せれば、このチームでの<仕事>は終わりなんだ。ファルトバウゼン王国へと帰れば、みんなそれぞれの役目に戻る。いつまでも私の部下として働いてる訳にはいかない。

ここまでくると、何となく区切りも見えてきて、そういう展望が具体的に思い浮かべられてきてしまった。

クレフリータは連日、王族や貴族の下を訪ね歩いて、戦争を思いとどまらせる為の<工作>を精力的に行ってくれてる。そして私は、彼女がこの国のお歴々を説得する為の根拠となる<成果>を出すんだ。

それがすごく楽しかったのだった。

<復讐>が楽しいなんて、おかしな話だけどさ。

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