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私は、そんな彼女の尊厳を私の感情で汚したくない

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だいたい、『ネローシェシカを殺された復讐する』って言ったって、誰に復讐すればいいのか分からない。戦争は殺し合いだ。向こうの兵士だって、『殺さなければ殺される』というのもあったと思う。そういう意味ではお互い様なんだ。どっちが死ぬかは時の運。

ネローシェシカ自身、<自分が殺される覚悟>を持って戦場に赴いたんだと思う。彼女はそういうのを考えられる人だった。

それでも、残された人間の感情として、『許せない』というのはあって当然だ。私だって彼女を殺した奴のことは許せない。だけど、彼女が亡くなったのは、敵の自爆攻撃だったんだ。彼女を殺した敵の兵士もそれで死んだ。

じゃあ、誰に復讐すればいいの? 自爆攻撃を命じた敵の上官? その上官は今でも生きてるの? それとも、戦争することを命じた、もしくは黙認した当時のムッフクボルド共和国の首長? でもその首長ももう、病気で死んだっていう話だった。

だったら、<ムッフクボルド共和国>そのものに復讐する?

正直、それも意味が分からない。何をもって<国への復讐>って言えるの? ネローシェシカ一人の命の代償を、ムッフクボルド共和国の十人、百人、千人の人の命で贖うの?

おかしな話だと思う。

冷静に考えてみたら、こんな訳の分からない話なんだ。

ネローシェシカはそれをよく知ってる人だった。だから私に対して、『もしもの時には仇を取ってね』みたいなことを決して言わなかったんだ。

私は、そんな彼女の尊厳を私の感情で汚したくない。

そして私は、自分の感情の落としどころとして、『戦争をさせない』ってことに決めたんだ。それが、私の<復讐>。

そんな私の復讐劇は、着実に実を結びつつある。

戦争を起こそうとする連中に、目にものを見せてやるんだ。お前達が『戦争でしか解決できない』と思ってることに対して、『それは嘘だ!』っていうのを突き付けてやるんだ。それこそ、ぐうの音も出ないくらいに。

だから私は、生活基盤が整ってすぐ、ルイスベントとバンクレンチとタレスリレウトと数人の役人を伴って畑へと出た。畑に着くなりその場にしゃがみ込んで、土を手に取ってそれを口に含んだ私に、役人達はギョッとする。

「……いい土です。ここの農民達もとても土を愛してるのが分かります。これなら、私の指示通りにやってもらえればちゃんと結果が出ます」

ハンカチに吐き出した土をポケットにしまいながら、私は役人達に告げた。

「土を食べるとか、この人は、頭がおかしいのでは?」

なんてこそこそ話をしてるのが聞こえても取り合わない。それに、彼らの言ってることは正しい。土をそのまま口にするというのは非常に危険な行為だ。魔法によって細菌やウイルスやその他諸々の微生物に対処できる私だからできることなんだ。

でも、その上で、戸惑ってもたもたする彼らに言う。

「私は陛下の勅命を受けてこの地にいます。私の指示に従わないのは、それは陛下のご意思に背くことです。そのことを肝に銘じてください…!」

その瞬間、役人達の間にピリッとした空気が奔る。

そんな様子を見ていたルイスベントとバンクレンチだけじゃなく、タレスリレウトまでが微かに笑みを浮かべてたのだった。

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