155 / 535
私は、誰かが言ってたそういうのを無批判に真に受けるのはしたくないと思う
しおりを挟む
ネローシェシカのことを忘れた日なんて、一日もない。この国に来てからだって、彼女を殺した国だっていう事実との葛藤の連続だった。
だけど、その、ネローシェシカ自身が恨みに我を忘れたりなんてのを良しとしない人だった。私はそれを知ってるから、自分を抑えることができたんだと思う。弟子である私が憎しみに囚われて冷静さを失ったら、彼女を愚弄することになると思うんだ。
これは、『復讐は何も生まない』とかいう綺麗事とは違う。もっと合理的で、実利的で、打算的な話なんだ。私がもし、『彼女を殺した国なんか、飢餓で滅びてしまえ!』と考えて動かなかったら、陛下が『戦争に向けた準備も始まっている』と言ってた通り、また戦争になって、たくさんの人が死んで、私も彼女と同じように戦争に駆り出されていたかもしれない。
ファルトバウゼン王国は直接は巻き込まれなくても、同盟国からの支援要請があれば、貴族であるルイスベントや、兵士であるバンクレンチ達は当然、それに応じて前線に赴くことになったかもしれない。そして、命を落としてたかもしれない。
確かに、こうして出向いても危うく命を落としかけたりもしたけど、巻き込まれる形と自分達の方から打って出るのとはでは、気持ちの持ちようも違うんじゃないかな。
それに、大規模で細かい部分での駆け引きが難しい戦争と違って、クレフリータがやってみせたみたいに、駆け引きによって危険を回避することだってできる。
戦争によって人が死ぬのは、大きな損害だ。労働力を失うことによって生産性は落ち、国力は削がれ、衰退する場合だってある。実際にそれが原因で滅んだ国なんて、地球上の歴史でもいくつもあった筈なんだ。
戦争が技術を発達させるという意見もあるかもしれないけど、それは結果論でしかないと思う。戦争によって発達した技術が誰かを救ったとしても、それは、戦争によって生じた犠牲と本当に釣り合うものなのかな? そういうのって結局、起こってしまった戦争とそれによる犠牲について『仕方なかった』と納得させる為の詭弁なんじゃないのかな?
私は、誰かが言ってたそういうのを無批判に真に受けるのはしたくないと思う。『戦争が起こるのは当たり前』『王族や貴族が人々を支配するのが当たり前』『奴隷制度があるのは当たり前』とただ何も考えずに受け入れるのはしたくないんだ。
だってそれは、『<悪魔のパン>があるのは当たり前』と諦めて何も対策しないのと同じだと思うから。
常識だと思われてること、当たり前だと思われてることに疑問をもって突き詰めて調べてみることこそが、発展につながるんじゃないかな。
だから私は敢えて、『大切な人を殺されたんだから復讐するのが当たり前』っていう考えをただ受け入れることはしないでおこうと思うんだ。
それも、ネローシェシカの教えだったから。
だけど、その、ネローシェシカ自身が恨みに我を忘れたりなんてのを良しとしない人だった。私はそれを知ってるから、自分を抑えることができたんだと思う。弟子である私が憎しみに囚われて冷静さを失ったら、彼女を愚弄することになると思うんだ。
これは、『復讐は何も生まない』とかいう綺麗事とは違う。もっと合理的で、実利的で、打算的な話なんだ。私がもし、『彼女を殺した国なんか、飢餓で滅びてしまえ!』と考えて動かなかったら、陛下が『戦争に向けた準備も始まっている』と言ってた通り、また戦争になって、たくさんの人が死んで、私も彼女と同じように戦争に駆り出されていたかもしれない。
ファルトバウゼン王国は直接は巻き込まれなくても、同盟国からの支援要請があれば、貴族であるルイスベントや、兵士であるバンクレンチ達は当然、それに応じて前線に赴くことになったかもしれない。そして、命を落としてたかもしれない。
確かに、こうして出向いても危うく命を落としかけたりもしたけど、巻き込まれる形と自分達の方から打って出るのとはでは、気持ちの持ちようも違うんじゃないかな。
それに、大規模で細かい部分での駆け引きが難しい戦争と違って、クレフリータがやってみせたみたいに、駆け引きによって危険を回避することだってできる。
戦争によって人が死ぬのは、大きな損害だ。労働力を失うことによって生産性は落ち、国力は削がれ、衰退する場合だってある。実際にそれが原因で滅んだ国なんて、地球上の歴史でもいくつもあった筈なんだ。
戦争が技術を発達させるという意見もあるかもしれないけど、それは結果論でしかないと思う。戦争によって発達した技術が誰かを救ったとしても、それは、戦争によって生じた犠牲と本当に釣り合うものなのかな? そういうのって結局、起こってしまった戦争とそれによる犠牲について『仕方なかった』と納得させる為の詭弁なんじゃないのかな?
私は、誰かが言ってたそういうのを無批判に真に受けるのはしたくないと思う。『戦争が起こるのは当たり前』『王族や貴族が人々を支配するのが当たり前』『奴隷制度があるのは当たり前』とただ何も考えずに受け入れるのはしたくないんだ。
だってそれは、『<悪魔のパン>があるのは当たり前』と諦めて何も対策しないのと同じだと思うから。
常識だと思われてること、当たり前だと思われてることに疑問をもって突き詰めて調べてみることこそが、発展につながるんじゃないかな。
だから私は敢えて、『大切な人を殺されたんだから復讐するのが当たり前』っていう考えをただ受け入れることはしないでおこうと思うんだ。
それも、ネローシェシカの教えだったから。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない
あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。
久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。
いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。
ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。
わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言?
もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方!
そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして────
※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。
※設定は相変わらずゆるんゆるん。
※シャティエル王国シリーズ4作目!
※過去の拙作
『相互理解は難しい(略)』の29年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、
『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。
上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。
※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)>
※ちょくちょく修正します。誤字撲滅!
※全9話
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
もういらないと言われたので隣国で聖女やります。
ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。
しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。
しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる