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謁見の間でのやり取りはあくまでただの<儀礼>で、本当に話したいことがある時は

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タレスリレウト、もといペテルソンエスに先導されて、私達は王宮へと向かった。

そこで待ち構えていたのは、私が想像してたのとはまったく違う、ひどく線の細い、一瞬、女性かと思うような美麗な青年だった。

ただ、その表情も含めて、私は何か得体のしれない違和感を覚えてしまった。まるで作りものみたいな……?

「此度の我らの要請に応じてのご足労、大儀であった」

発せられたその声に聞き覚えがあって、ハッとなってしまう。

『タレスリレウトの声…?』

それに気付いた途端、陛下の顔つきが彼に似ていることに気付いてしまった。

『どういうこと…? 兄弟か何かってこと?』

疑問を覚えながらもそれは口にしない。こういうところでは余計なことは言わないのが鉄則というのを学んできたからだ。謁見の間でのやり取りはあくまでただの<儀礼>で、本当に話したいことがある時はまた別にその為の席が設けられるんだ。

だから今はとにかく儀礼的なやり取りに終始する。

「陛下にお目に掛かれて恐悦至極に存じます」

と、私達を亡き者にしようとした国の領主だということはさて置いて、<礼>は尽くす。

そんな私を、クレフリータは満足そうな目で見ていた。この手の場所での対応も板についてきたのが分かったからなんだろうな。敢えて彼女が発言しないのが何よりの証拠だったと思う。私に任せておけば大丈夫だって思ってくれたんだろう。

で、案の定、謁見の後で案内された貴賓室らしい部屋で、平服に着替えたアルバミスト・ルェン・フォーサリス・メトラカリオス陛下と面会することになった。

「ああ、構いません。気楽になさっててください」

陛下が部屋に入ってきたことで立ち上がって迎えようとした私達を、彼は困ったような笑みを浮かべながら制した。

「では、お言葉に甘えて」

私もそれを受けて席に座りなおす。もちろん、クレフリータとルイスベントもだ。バンクレンチ達は別室で控えてる。万が一の時にはいつでも動けるように気は引き締めて。

私達をもてなすために用意された食事を勧めながら、彼はまず深々と頭を下げた。

「まずは、先代による非礼をお詫びしなければなりません」

って。

それに対し、クレフリータが口を開く。

「私達を暗殺しようとした件についてですかな?」

やや失礼かなという物言いにも拘らず、陛下は申し訳なさそうに笑いながら言った。

「はい。おっしゃる通りです。先代は、非情に短絡的な人物でしたので」

「…仮にも先の元首に対してそれはいささか手厳しいですな」

今度はクレフリータが苦笑いをする番だった。当然か。どんなに外からの評判が悪い人物だったとしても、自分の国の王族を、他人の前で貶めるような発言はしないのが普通だったからね。

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