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首長を押さえるということにはちゃんと意味がある

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「貴公はまさに救世主! いや、それ以上だ!!」

後はもう収穫を待つだけとなった小麦畑の様子を役人達から告げられたヘルデカイラス公国の領主様は、これまでのことを思えば想像もできないような大豊作の報せに、顔を真っ赤にして興奮しきりだった。その評価は嬉しいけど、正直、面倒臭いかなとも思う。評価が高くなれば高くなるほど、この国から離れようとすれば強く引き留められるだろうから。

事実、私の功績を祝う為に執り行われたパーティーでは、やれ『貴族の称号を与えよう!』だの、『領土の一部を与えるからそこを治めてほしい』だの、あの手この手で私をこの国に留まらせようとしてた。

だけどそれについても、クレフリータは事前に根回しをしてくれてて、あまりしつこくしないようにはしてくれてたみたい。

「いや、本当に惜しい。貴公のような人物こそ我が国に相応しいというのに…!」

なんて、酔っぱらった貴族のおじさんが泣きながら言ってたり。

だけど私は思ったんだ。

『それは違いますよ。この国にだって優秀な人達はたくさんいます。だけどあなた方が、身分や出自を理由にそういう人達を蔑ろにしてきただけです。もっと広い視野を持ってください。過去や因習に囚われるだけじゃなく、冷静で多角的な視野を持つようにしてください。指導者の器一つで国というのは栄えもするし衰退もするんです』

って。

さすがに口には出せなかったけどさ。

「さてと、それではいよいよ、ボス戦ということだな」

なんて、パーティーの後でクレフリータがほんのりと上気した顔でそう言った。

ボス戦……メトラカリオス公国に行くってことだね。

「メトラカリオス公国の領主が、今のムッフクボルド共和国の首長なんだっけ?」

「ああ、そういうことだ。メトラカリオス公国の現領主、アルバミスト・ルェン・フォーサリス・メトラカリオスこそが、ムッフクボルド共和国現首長であり、舵取り役なのだ。彼の意向により、ムッフクボルド共和国の大まかな方針が決まる。

と言っても、実は前にも言ったが、ムッフクボルド共和国を構成する国々は自治権を盾に割と好き勝手なことをしていて、他国への戦争さえ独断で始められたりもする。しかし、だからと言って首長の意向を完全に無視できる訳でもない。黙認という形で容認しているだけで、『やめろ』とはっきり言えばそれなりに抑制力にはなるのだ。

だから、首長を押さえるということにはちゃんと意味がある。私達はそれを目指すということだ」

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