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あなた方の権力争いについては私は関知しません

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ここでの生活は、検閲はされるけど手紙をやり取りすることもできた。だからプリエセルエラ公国にいるリレに、私達の無事を告げる手紙を送った。

すると、リレからも返事が届いた。何度も開封されて中身を確認されたからか手紙はよれよれになってたけど、小さな子供のような拙い字で『こちらもがんばってます。しゃちょう』と、短く書かれてた。こういう時、検閲を通しても問題ない内容として、事前にクレフリータがリレに伝えていた文面だった。

「<しゃちょう>とは、何ですか?」

手紙を検閲したブルクバンクレンさんが問い掛けてくる。

まだ<会社>という仕組みが完全には定着してないこの世界ではピンとこない単語なんだろうな。

「<会社の長>ですよ。私のことですね」

誤魔化す必要もないから正直にそう応える。

「そうですか。では、メトラカリオス公国からの申し出についてはどうなさるおつもりで?」

<メトラカリオス公国>というのは、盗賊の格好をして私達を襲撃した連中の背後にいた国らしい。しかも、ムッフクボルド共和国の現首長様が治めてる国なんだとか。

「力を貸してほしいと言うんだったら貸しに行きますよ。でもその前に、ちゃんとここでの仕事を一段落付けてからですけど」

私がそう言うと、

「それを聞いて安心しました」

とブルクバンクレンさんがうんうんと頷く。

そうだ。私はここの仕事を投げ出すつもりはない。だけど、私達を亡き者にしてでもパワーバランスを保とうとしたところも放ってはおけない。でないときっと諍いの原因になる。こうして取り敢えず<書簡>という形で先方が接触を図ってきてるのならそれを無視もしない。

「私が持ってるものは全て提供します。だから仕事に集中させてください。あなた方の権力争いについては私は関知しません」

ブルクバンクレンさんに対して、私もはっきりとそう言わせてもらう。

もっとも、私がこうして強気でいられるのは、クレフリータの根回しがあってのことだけどね。

彼女はこの仮住まいの屋敷にはほとんど寄り付かず、連日、国の重要な部分を担ってるお歴々にお目通り願って、延々と弁舌をぶってるらしい。ブルクバンクレンさんが感心してた例の<鎖帷子>の供与を柱に、<商売>という形で。

私が私にできることをやってるように、彼女は彼女にできることをやってるんだ。

ルイスベントとバンクレンチ達も、私を手伝って頑張ってくれてる。先の襲撃で重傷を負った部下も、ほぼ回復して、リハビリを兼ねて身の回りのことをしてくれてる。

私達はチームだ。チームとしてできることをしなきゃね。

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