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手に入らなければ壊してしまえと言われたか?

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「やれやれ、人気者は辛いな」

馬車の外では既に戦いが始まってるらしいのに、クレフリータは肩をすくめてただ頭を振ってただけだった。ホントに肝っ玉が据わってると言うか、ぶっ壊れてるって言うか。

だけどさすがにブルクバンクレンさんは渋い顔で、

「マズいですね…」

と呟いた。そして私達の方を向き直り、

「あなた方を無事に連れて帰るように言われてましたが、難しくなってきたようです」

なんてことを。

するとクレフリータが、やっぱりニヤリと笑う。

「手に入らなければ壊してしまえと言われたか?」

その言葉に、ブルクバンクレンさんが、

「すいません。こちらも仕事なもので」

とか、言ってることの割に申し訳なさそうな顔を一切せずに言いのけた。それと同時に、彼の手にはいつの間にか、大人の肘から指先くらいまでの長さのある、短剣と言うには長いし、かと言って普通の剣よりは明らかに短い、服の中とかに隠しておけるけど殺傷力は尋常なく高そうな剣が握られてた。

だけど。

「無粋な真似はやめていただきたい」

そう声を発したのはルイスベントだった。ハンカチのような布を巻きつけた手で、ブルクバンクレンさんの剣の刃を握ってた。

って、え!? 大丈夫なの、それって!?

驚く私の目の前で、でもブルクバンクレンさんが「むう…!」と唸る。

「なぜ…?」

とも声を漏らしてる。

それに対してクレフリータは、

「こちらも用心はしてきたからな。武器は身に付けられずとも、身を守る為の小道具くらいは用意するさ」

って嬉しそうに。

「カリンさん! 無事ですか!?」

外の喧騒に混じって聞こえてきたのは、バンクレンチの声だった。

「心配要らん。それよりそっちはどうだ?」

馬車の窓を開けてクレフリータが声を掛ける。するとバンクレンチの顔が見えた。その顔が何か黒いもので濡れてるようにも見える。

『血……!?』

咄嗟に私が思った通り、それは血だった。バンクレンチの頭から血が流れてたんだ。だけどその割には元気そうで、

「全員無事です! リータさんの言った通りでした。こいつら、他に奪われるくらいなら全員殺すつもりだったようです!」

だって。

後から聞いた話だと、もし私達を奪われそうになったらその場で殺す手筈になってて、ブルクバンクレンさんの部下が私達の馬車を取り囲んでたんだって。

だけどクレフリータがこれまで何度も言ってきたように、こういうことも起こるのを想定して準備はしてたんだ。

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