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そうですか。でも、それよりも、腹を割って話しませんか?

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隣に古道具屋の店を開いたブルクバンクレンさんは、普通にまじめに仕事をしてた。

と、私の目には見えた。

だから私もあまり気にしないように、仏に仕事に精を出す。

<ちょび髭の領主様>を通じて堆肥の確保に協力してもらって、奴隷達に堆肥化したウンチの回収をしてもらう。

雪がちらつき始めた厳しい時期だけど、奴隷達は文句も言わずに(いや、『文句は言えずに』のほうが正しいだろうな)、真面目にリレの指示に従って回収、運搬の仕事をこなしてくれた。

歯向かったら命が無いという境遇だったから無理はないとしても、それを当然だとは私は思わないでおこうと自分に言い聞かせる。そして、奴隷達の食事等の待遇面で、過剰にならないように注意はしつつも、健康を損なわないように気を付ける。

するとやっぱり、

「こんないいもの食べさせてもらって…!」

と戸惑ってたりもした。いや、別にそんな特別じゃないからね。むしろ質素なくらいだからね。と言っても、それがそもそも感覚の違いなんだろうけどさ。

それでもここでは奴隷も目に見えて虐げられてるわけじゃないから、他の国よりは普通に扱われることに慣れて行ってくれるかもしれない

そんな感じで調子よく仕事をこなしてたんだけど……



「雪がきつくなってきましたね」

事務所の窓から外を眺めてたバンクレンチがそんなことを言った時、「ん?」と声を上げた。

「誰か来た。って、あれは隣の……」

するとすぐにドアがノックされた。

「はい?」

バンクレンチの部下の一人が少しだけドアを開けて様子を窺う。

そこにいたのは、隣のブルクバンクレンさんだった。

「こんばんは。寒いですね。ちょっとお話があるのですが、よろしいですか?」

雪を被ったブルクバンクレンさんにそう問い掛けられて、私とクレフリータの方に指示を仰ぐかのように振り返った部下に、

『いいだろう』

と言いたげにクレフリータが頷いた。

それを確かめて、

「どうぞ」

と迎え入れる。

「これはこれは、ご親切に」

言いながらにこにこ笑顔のブルクバンクレンさんが体に積もった雪を掃いながら入ってくる。

その姿は、一見すると本当にご近所さんが世間話をする為に訪れたとしか思えない様子だった。

「今年はいつもに比べると雪が多そうですなあ。皆さんは他所から来られた商人の方々だそうですが、どうですか? この国の冬は」

なんていう世間話に、私も、

「そうですね。以前の国はもう少し寒さがマシなところでしたから、慣れるまでは大変かもしれないです」

と、何気なく答える。

だけどそれを受けて、ブルクバンクレンさんが言う。

「そうですか。でも、それよりも、腹を割って話しませんか?」

そこには既にあの人の良さそうな笑顔はなく、ギラリと鋭い眼光が私達を射抜くように向けられていたのだった。

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