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守る為には生きなきゃ。私の為に死ぬなんて許さない

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『私達の今の役目は命のやり取りをすることじゃない』

クレフリータにはっきりとそう言ってもらえたことで、私は少しホッとした。

こういう時ってよく『命を捨てても』なんてことを言われるパターンなんだろうけど、私達は別に、<殺し合い>をしに来たわけじゃない。

以前、どこかで聞いたことがある。

リアルな軍隊の特殊部隊だって、『戦って死ね』みたいなことを命令したりしないって。第一の目的はもちろん任務遂行だし、命を落とす可能性については覚悟しろみたいには言われるけど、任務を遂行する為にも『死ぬな』みたいなことを言われるって。

私達もそうだ。生きて目的を果たさないと駄目なんだ。

「俺達ならもう覚悟はできてますよ! あんたを守って戦って死ねるなら本望だ!」

バンクレンチ達はそんなことも言ってたけど、私は言ってやったんだ。

「死んだら駄目なんだよ。私を守る為についてきてるんでしょ? だったらなおさら死んだら駄目だ。『死んでも守る』なんてセリフは聞きたくもない。死んだら何もできないんだよ。守る為には生きなきゃ。私の為に死ぬなんて許さない。私の為だって言うのなら生きてちょうだい」

ってさ。

その時の私の剣幕にバンクレンチ達は目を白黒させてたけど、偽らざる私の本音だよ。

そうだ。死んだら何もできない。死んだ人間は何もしない。『死んでも守る』なんてオカルトパワーはこの世界にも存在しない。確かに、この世界には魔法があって、死んだ人間をゾンビとして使役するような<禁呪>と呼ばれるものもあるとは聞くけど、それはただの術者の<道具>になるだけで、そんなのは守ってることにならないと思う。だって、死体なら誰のだっていいんだから。

それに、漏らして困る情報なんて私達は持ってない。クレフリータやルイスベントはそういうものも持ってるかもしれないけど、そのクレフリータが『訊かれたら何でも答えろ』と言うってことは、そうなった時の備えはちゃんとしてるってことだって分かる。

私が知ってるものは一通り提供する為に来たんだ。『教えろ』と言うなら教えるし、『学ばせろ』と言うならそうしてもらえばいい。

「とにかく、私達は<殺し合い>をする為にここに来たんじゃないってことを忘れないで。私達は普通に仕事をして、それで目的を果たすんだから」

「カリンの言う通りだ。お前達は私達が陛下からお借りしている大切な兵士なんだ。陛下の為ならともかく、こんなところで無駄死には許さん。分かったな」

私とクレフリータに言われて、バンクレンチ達は、

「わ、分かったよ…」

と身をすくめる。

そんな様子を、ルイスベントがくすぐったそうに見てたのだった。

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