上 下
120 / 535

どうしても幼い頃から染みついた因習にはついつい引きずられてしまう

しおりを挟む
リレは本当に<優秀な人材>だった。その顔を覆う痣のせいで疎まれてきたけど、その知能は確実に標準的なそれを上回ってると思う。きちんと教育さえ受けられれば、十分以上に働ける。

ただ見た目が『普通じゃない』というだけでそんな風に扱われる人達がいるというのが本当に残念だった。そういうことが科学や技術の進歩を妨げてるっていう気もする。

一方で、堆肥の回収の為の人手として、<ちょび髭の領主様>に頼んで奴隷を回してもらった。<計画的な産業>を標榜するこの国では、仕事もあまり自由に選べないらしい。だから新たに奴隷を手配してもらったんだ。

だけど、建前上は奴隷はいないことになってるから、ひどく大人しくて不安そうな表情で私達を見るだけで、見た目には本当に<普通>の人達だった。

とは言え、<ちょび髭の領主様>に買われるまではそれなりの扱いも受けてきたからか、栄養状態も芳しくなかった。

だから私は、その奴隷達の管理をリレに一任することにしたんだ。

「私が今日から皆さんの上司になります、リレです」

正直、板についてるとは言い難い、少しぎこちなさの残る感じで、リレは整列してた奴隷達に向かってそう言った。それでも、向こうでも仮にとはいえ奴隷達のリーダーだったから、ある程度は慣れてると思う。

ただこっちでは、<売れ残り>じゃない普通の奴隷だったから、年齢は一応、十三歳から十五歳くらいの子供達だったんだけど、男の子も結構混ざってたんだよね。だから余計に、リレも緊張しちゃったみたい。

けっこうイケメンな感じの男の子もいたからね。

「我が国では考えられない光景ですね」

私の隣に立ったルイスベントがしみじみと声を漏らす。彼もファルトバウゼン王国の貴族だからご多聞に漏れず奴隷に対してはある種の嫌悪感があったのは否めない。私と関わることでそれもかなり慣れてきたとは言っても、やっぱり彼にとっては、奴隷が普通の格好をしてこうして整列してるというのは違和感を覚える光景なんだろうな。

「私は、仕事ができる人なら、国も人種も背景も問いません。結果を出してくれればいいんです」

きっぱりと言い切る私に、ルイスベントは苦笑いを浮かべる。

「あなたの先進性には本当に頭が下がります。私も見習わなければと思うのですが、どうしても幼い頃から染みついた因習にはついつい引きずられてしまう」

彼が悪気無く身に沁みついた感覚として奴隷を下に見てしまうことについては、別に責めるつもりもない。

そんな私を優しく見詰めながら、彼は言ったのだった。

「だからこそ、私にできないことができるあなたのことを想ってしまうのです」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界に吹っ飛ばされたんで帰ろうとしたら戦車で宇宙を放浪するハメになったんですが

おっぱいもみもみ怪人
ファンタジー
敵の攻撃によって拾った戦車ごと異世界へと飛ばされた自衛隊員の二人。 そこでは、不老の肉体と特殊な能力を得て、魔獣と呼ばれる怪物退治をするハメに。 更には奴隷を買って、遠い宇宙で戦車を強化して、どうにか帰ろうと悪戦苦闘するのであった。

処理中です...