何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十

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バンクレンチ達が酒場や食堂で飲み食いして調べてくれたおかげで

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私はとにかく、ただ真面目に自分にできることをした。

バンクハンマの畑でいろいろと試して最近では割といい感じになってきてた雪瓜の種を持ってきてたからそれをモルスエイトさんの畑でも栽培してみることにする。気候的には向こうよりもやや寒いくらいで、しかも雪は普段は少なめだそうだから、むしろ適してると思う。

この辺りでも、畑は交互に休ませて作付けすることになってたから、本来は来年、休ませるはずだった畑に雪瓜を作付けする。土をよく調べて、堆肥の量を調節して、生育具合を注意深く見守る。

「うちでも雪瓜と作ることになるとは思わなかった」

モルスエイトさんはそう言って驚いてたけど、バンクレンチ達が酒場や食堂で飲み食いして調べてくれたおかげで私には分かってた。この国では雪瓜はむしろ一般的に食べられてる野菜で、でも殆どが輸入に頼ってるって。それが、例の<麦角災禍>のせいで輸入元とぎくしゃくして、十分な量を輸出してもらえるかどうかが怪しくなってたらしい。こうなると是が非でもこの雪瓜の栽培を成功させなきゃね。

様子を見に来た役人も、

「我が国でも雪瓜が作れるのか?」

と驚いてた。それが<領主様>のところにも伝わって、他の畑でもまずは雪瓜を試すことになった。

そうは言っても、用意した種にも限りがある。

「今ある雪瓜から採れる種をそのまま使うのでは駄目なのか?」

って担当の役人の人は聞いてくるけど、それじゃたぶん、私がバンクハンマの畑でした失敗を繰り返すだけだと思う。私達が何度も試してある程度適した種を選別してきたからそれなりの結果が得られるようになってきたんだ。

それに、そんな簡単にできるならここの農家の人達もかつて試したはず。モルスエイトさんが『作ることになるとは思わなかった』と言ったくらいだから、試した上で駄目だったってことが伝わってたんだと思う。

何度も失敗を重ねた上で得られた種から育った雪瓜は、気候も合ってたのか順調に育って、本格的な冬がきた頃には立派な実をつけてくれた。

でも、これだけじゃない。

普段は春の割と早い時期に作付けを行う種類の野菜も同時に育てた。今後、ここでも二毛作を行うことを視野に入れた試験の意味もある。二毛作に向く作物を選別する為だ。

だからちゃんと、

「これは来年以降に向けて試すための物なので、今回は収穫はしない場合もあります」

って断った上でやってる。上手くいかなかったからってそれであれこれ言われても敵わないしね。

だけどそれらもみるみる育って、

「まるで季節が狂っちまったみたいだ」

なんて、モルスエイトさんと役人が揃って唖然としてた。

もちろん全てが上手くいった訳じゃない。今回のやり方には適してなかったのか駄目だった作物もある。けれどそれを知るのも目的なんだから、別に気にしなくていいんだよ。失敗するのも必要なんだ。

「ここの畑のも、良い土です。これなら次の春以降も何も心配ない」

私は十分な手応えを感じ、さらに土まみれになってたのだった。

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