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パンとかを作って食べてみて中毒が出ないことを確かめないと

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結論から言えば、私が開発した<対麦角菌魔法>は、成功だった。むしろ自分でも驚くぐらいすごい効果だった。

感染した小麦を取り除くと、そこから先は新たに感染も発生せず、長雨が過ぎた秋晴れの中、収穫が行えてしまった。

試験的に栽培したものだったから量は本当に知れてるけど、間違いなく良質な小麦になった。

念の為、私自身が、麦角菌が残ってないか全量検査した。でも、全く見付けられなかった。毒素の反応もない。

だけどまだだ。これを実際に粉に挽いて、パンとかを作って食べてみて中毒が出ないことを確かめないと。

「なら、それは私達の役目だな」

と、クレフリータが言った。

「でも…」

躊躇う私に、彼女は言う。

「私はお前を信じてる。何も心配しとらん。だが、お前は食べるなよ。万が一の時にはお前に治療してもらわなきゃいかんのだからな」

その言葉に、ルイスベントやバンクレンチ達が頷く。

「俺もあんたを信じるよ」

モルスエイトさんまでがそう言ってくれた。

そして小麦を石臼で粉に挽き、モルスエイトさんの家で彼の奥さんがパンを焼く。美味しそうに焼き上がったそれを、クレフリータと、ルイスベントと、バンクレンチ達と、モルスエイトさん一家までが食べた。

「こりゃ美味え!」

「美味しいよ!」

モルスエイトさんの孫で、まだ五歳の女の子もそのパンをモリモリ食べてくれた。

大丈夫な筈だけど、私は祈るような気持ちで待った。だけど、一日経っても、誰も何ともなかった。あの後、さらにパンを食べたのに。

「お前の勝ちだな。カリン」

クレフリータがニヤリと笑いながら言った。そこでようやく私も上手くいったんだというのを確信できた。

モルスエイトさんは私の手を掴みながら泣きそうな顔で、

「あんた、魔法使いだったんだな。俺達を救いに来てくれたんだ。ありがとう……本当にありがとう……」

って膝を付いて感謝してくれた。

だけどその時、突然、モルスエイトさんの家の扉が乱暴に開け放たれて、

「お前達だな。勝手に計画外の生産を行ったというのは」

まあ、当然のことだけど、モルスエイトさんの畑で試験的に無許可で小麦を栽培してたことが知られてしまったんだ。

すると、ルイスベントがモルスエイトさんの孫を抱きかかえて、

「そうだ。俺達が、この家族を脅して小麦を作らせた。それで商売しようと思ったんだが、バレちまったんならしょうがないな」

と、普段の彼からは想像もできないような悪党らしいセリフを口にした。

それと同時に、クレフリータが踏み込んできた役人にすっと近付いて、

「まあ、そういうことだ。私達は大人しくついて行くから、一つよろしく頼む」

なんて言いながら銀貨数枚をそっと握らせたのだった。

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