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いかにも怪しい勧誘みたいな声の掛け方になってしまったけど

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『収穫量を増やす方法があるんですが、ちょっと試してみませんか』

なんて、いかにも怪しい勧誘みたいな声の掛け方になってしまったけど、その辺は実際の行動と結果で、そうじゃないことを示すしかない。

モルスエイトさんの畑に毎日通い、水やりや草引きに汗を流す間に、休耕地を耕した時にはまだどこか訝しがってる様子もあった彼と、すっかり打ち解けあっていた。

そこで私は、敢えて突っ込んだ話をする。

「ところで、<悪魔のパン>のことですけど……」

私がそう口にした途端、モルスエイトさんはギョッとした顔をして、

「そういうことは口にしない方がいい…!」

って私を諫めた。

その様子に、この国では麦角中毒の件はタブーにされてるんだなと実感を得る。

だけど私は、

「そうですか。でも私は、その<悪魔のパン>を退治する為にこの国に来たんです。だから私が実際に<悪魔のパン>ができる原因になった悪い精霊を退治するところを見て欲しい」

とはっきり言わせてもらう。

「…そんなことができるのか!?」

声は潜めながらも、モルスエイトさんは目を大きく見開いて明らかに動揺した姿を見せた。やっぱり、具体的な対策は何もなく、ただ麦角菌の発生が収まるのをただ待つだけというのが現状なんだって察せられた。

今回、モルスエイトさんの畑に撒いた分については、一部を持ち帰り調べてみたけど麦角菌らしきものは見付けられなかったから、取り敢えずは感染してないらしい。ここで麦角菌(もしくはそれに類するもの)が見付けられれば話しは早かったけど、さすがにそう上手くは行かないか。

それでも、みるみる大きくなっていく芽を実際に見ていたモルスエイトさんは、縋るような目を私達に向けてくる。

「もし、そんなことができるんなら、俺達を助けてくれ……!」

この畑がある小国とは別の小国で発生した今回の麦角汚染だけど、それによるダメージを何とか抑えようと、普段は小麦を作ってないこの辺りでも来年には作付けが命令される予定で、既にその為の種も配られてるってことだった。

でももし、ここでもまた麦角菌の感染が広がるようなことがあれば、そのダメージは計り知れないものになってしまう。

そこで私は言った。

「その種を見せてもらえますか?」

こうしてモルスエイトさんのところに配られた小麦の種を調べることになった私は、それらを丁寧に確認していった。

そして遂に、

「……やっぱり、麦角菌とほぼ同じ菌だ……」

と声が漏れるくらいに決定的なものを見付けた。菌そのものを。

モルスエイトさんに配られた小麦の種の一部も、麦角菌に感染したものだったんだ。もしこれをそのまま蒔いてたら、さらに感染が拡大していただろうな。

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