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収穫量を増やす方法があるんですが、ちょっと試してみませんか

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なんと言うか、実に歪な国という印象は正直感じる。ただ、それでも住んでる人達は自分が置かれた環境の中で精一杯生きようとしてるのは確かだと思うんだ。街に接した農地で働いているモルスエイトさんもそういう一人だった。

酒場でバンクレンチと意気投合したっていうモルスエイトさんは、代々この町の近くの畑を担当してきた農民で、しかも、ネセルグルスク王国で『俺の親戚に会えたらよろしく言っておいてくれないか』って言ってた人のまさに親戚だってことが、酔っぱらったバンクレンチが口走った話で分かったんだよね。

「そうか…元気にしてるのか……」

子供の頃、今よりもっと国境近くで住んでて、何だかんだとあの<どちらでもない曖昧な町>で顔を合わせては一緒に悪戯をしたりと仲の良かったその人が今も元気だって知って、モルスエイトさんはしみじみ涙をこぼした。

この街で農業をしてる人に出逢えたのはまさに天の恵み。

だから私は、

「収穫量を増やす方法があるんですが、ちょっと試してみませんか」

と持ち掛けてみたんだ。

この国では農業も計画的に行われて、農地は全てその畑があるそれぞれの<小国>のもので、農民はあくまでそこで働く労働者でしかなかった。となればあまり勝手はできないけど、生産計画に含まれてない休耕地っているのはやっぱりあって、そこで試すならってことで話はまとまった。

「これを、畑に…?」

後日、私達のウンチに加え馬糞や牛糞を合わせて堆肥化したものを持ち、私とルイスベントとバンクレンチはモルスエイトさんが受け持ってる休耕地へとやってきた。

「じゃあまず、畑を耕さないといけませんね」

そう言って私は休耕地を覆う雑草を刈り始めた。当然、ルイスベントとバンクレンチも手伝ってくれる。

モルスエイトさんも半信半疑って顔をしながらも作業を行った。

休耕地と言っても、実は去年までは使ってて今年から休ませることになった畑だったから(モルスエイトさんが担当してた畑で作ってた作物は生産過剰になってしまってたそうだ)、耕すだけで概ね使える状態になった。

そこに、堆肥を混ぜ込んで、私が土の状態を確認して微調整した上で、恐らく領主の方から次に生産するようにと言われるだろうことが分かってた小麦を植える。既に作付けの時期は過ぎてて今からじゃ気温が下がってくる前に収穫は難しいかもしれないけど、あくまで生育状態を見てもらう為のものだから別にそれで構わなかった。

街での商売はクレフリータに任せ、私は毎日、モルスエイトさんの畑に通ったのだった。

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