何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十

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この国で商売って難しいんじゃないかって気がしてた

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この世界ではまだ住民台帳のようなものが十分に整備されてない上に、<国籍>と呼ばれるものも、一応形としては無い訳じゃないんだけど、それはあくまで貴族やごく一部のそれなりの地位にある国民しかしっかりと管理されてなかった。だから地球で暮らしてた私なんかにとっては、『え? こんなんでいいの?』と驚かされるくらいに制度がゆるゆるだったりする。

だけど無理もないんだろうな。現代の地球のように管理用のシステムも整備されてないし、顔も知られてない一般国民の本人確認の為の仕組みも十分じゃない。それぞれの地域の顔役みたいな人が『うちの村の住人です』みたいに言うことでしか身元を証明できない。

その所為で、逆にそれを利用して地域地域の<顔役>に袖の下を渡して住人に成りすますということも当たり前に横行してた。

このムッフクボルド共和国でもそういうのは存在してるらしい。結構管理が厳しいように見えてもやっぱり穴はあるということか。

そういう形で間諜は入り込んでるんだって。

「こんにちは、ご精が出ますね」

クレフリータが店先で靴を作ってた職人に、<余所行きの笑顔>でそう話しかける。で、あれこれ世間話をしてたと思ったら私達のところに戻ってきて、

「この街の有力者に繋がるルートを作れそうだ。今日はそこで世話になろう」

と言った。ただの世間話に聞こえてたのはいわゆる符丁で、あの靴職人は間諜の一人だったらしい。そこから、知人を介してこの町の有力者に繋いでもらうことになったみたい。

「おそらくこの街を、ムッフクボルド共和国における我々の最初の拠点にすることになると思う。ここは、首都からは距離があって監視の目は十分に行き届かないが、情報や流通の拠点の一つにもなっていて、この国で商売をするには都合のいい場所だ」

クレフリータはそう言うけど、正直、ここまで見てきた印象で、この国で商売って難しいんじゃないかって気がしてた。

すると彼女は、

「まあ、私達がこれまで通ってきたところは、対外的に見栄えが良くなるように整備された場所だったからな。しかし、どこでもそうだが表もあれば裏もある。配給される物品だけで全て満足できる人間はむしろ少ないだろう。だから、この国の住人向けの<市場>もあるんだ。そこでは普通に商売が行われてるぞ」

さっきの靴職人も、店先では外国人向けの靴を作りながら、店の奥ではこの国の住人向けの靴も作ってるってことだった。本来の配給用の製品とは別にね。

「私達も、『外国人向けの商品を買い付けに来たというてい』でまずはここにとどまり、人脈を作っていく。そしてそれを手繰って政府に近付き、いよいよ本職として活動するという手筈だ」

分かってはいたけど、時間かかりそうだなあ。

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