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悪魔が何人も私を食べると言ってやって来て、そりゃあ恐ろしかった
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その国、ムッフクボルド共和国は、ファルトバウゼン王国と同盟関係にある隣国ネセルグルスク王国と国境を接し、長年にわたって戦争を繰り返してきた国だった。元々は豊かな農業国家だったのが、今から百年くらい前に起こった大飢饉の際に軍事国家に舵を切り、本格的に周囲の国と諍い始めたらしい。それ以前から何だかんだと戦争してきたらしいけど、特に先鋭化したのはそういう経緯なんだって。
国境を接し何度も戦争をしてきたネセルグルスク王国を通る際にさらに情報を仕入れると、ムッフクボルド共和国とは国交がない筈なのに何だかんだと裏では交易があって(実は民族的なルーツは同じで、しかも国境付近の村々はかつてはムッフクボルド共和国の領土だった時期もあることから交易があり、事実上黙認されてた)、ムッフクボルド共和国産の小麦を使ったパンで今回、麦角中毒の被害者も出たそうだ。
幸い、症状は軽くて現在は快方に向かってるそうだけど、改めて麦角中毒の怖さを思い知らされた気がする。
その患者とも面会し、中毒時の様子を改めて尋ねてみると、やはり麦角中毒なんだろうなって思いがさらに強まった。
「悪魔が何人も私を食べると言ってやって来て、そりゃあ恐ろしかった」
中年の女性が青褪めながらそう幻覚について詳細に語るのを見て、生の患者の声ってものの臨場感を感じたな。私にとっては、資料の上でしか知らないことだったから。
「悪魔悪魔と騒ぐもんだから、本当に悪魔が憑いたんだと思って、こいつを殺して自分も死のうと思ったよ。家族からそんなのを出しちまったらこの村じゃ生きていけないからな」
女性の夫がそんな風に言うのも無理もないのか。だけどそういう考えが、地球では<魔女狩り>に繋がっていったんだろうなと思うと怖かった。
私はその村の人を集めてもらって、説明した。
「今回のことは、ムッフクボルド共和国で<麦角菌>という悪い精霊に憑かれた小麦を使ったパンを食べたことによるただの病気です。本当に悪魔に憑かれたわけじゃありません。今回の患者も皆さん治りつつあります。もう心配はいりません。悪魔に憑かれたんじゃないってことをちゃんと分かってほしいと思います」
いきなりきてこんなことを言ったってどのくらい真面目に聞いてもらえるのか分からないけど、せめてものと思えばね。
「それにしてもあんたら、ムッフクボルド共和国に商売しに行くんだって? 随分と物好きだけど、今のあの国で商売になるものなんてあるのかい?
まあいいや。あの国には、俺の親戚が今も住んでるそうだ。もし会えたら元気だって伝えてもらえないか」
とか、元は同じ国だったってのを感じさせる話も聞かされながら、私達はいよいよムッフクボルド共和国へと向かったのだった。
国境を接し何度も戦争をしてきたネセルグルスク王国を通る際にさらに情報を仕入れると、ムッフクボルド共和国とは国交がない筈なのに何だかんだと裏では交易があって(実は民族的なルーツは同じで、しかも国境付近の村々はかつてはムッフクボルド共和国の領土だった時期もあることから交易があり、事実上黙認されてた)、ムッフクボルド共和国産の小麦を使ったパンで今回、麦角中毒の被害者も出たそうだ。
幸い、症状は軽くて現在は快方に向かってるそうだけど、改めて麦角中毒の怖さを思い知らされた気がする。
その患者とも面会し、中毒時の様子を改めて尋ねてみると、やはり麦角中毒なんだろうなって思いがさらに強まった。
「悪魔が何人も私を食べると言ってやって来て、そりゃあ恐ろしかった」
中年の女性が青褪めながらそう幻覚について詳細に語るのを見て、生の患者の声ってものの臨場感を感じたな。私にとっては、資料の上でしか知らないことだったから。
「悪魔悪魔と騒ぐもんだから、本当に悪魔が憑いたんだと思って、こいつを殺して自分も死のうと思ったよ。家族からそんなのを出しちまったらこの村じゃ生きていけないからな」
女性の夫がそんな風に言うのも無理もないのか。だけどそういう考えが、地球では<魔女狩り>に繋がっていったんだろうなと思うと怖かった。
私はその村の人を集めてもらって、説明した。
「今回のことは、ムッフクボルド共和国で<麦角菌>という悪い精霊に憑かれた小麦を使ったパンを食べたことによるただの病気です。本当に悪魔に憑かれたわけじゃありません。今回の患者も皆さん治りつつあります。もう心配はいりません。悪魔に憑かれたんじゃないってことをちゃんと分かってほしいと思います」
いきなりきてこんなことを言ったってどのくらい真面目に聞いてもらえるのか分からないけど、せめてものと思えばね。
「それにしてもあんたら、ムッフクボルド共和国に商売しに行くんだって? 随分と物好きだけど、今のあの国で商売になるものなんてあるのかい?
まあいいや。あの国には、俺の親戚が今も住んでるそうだ。もし会えたら元気だって伝えてもらえないか」
とか、元は同じ国だったってのを感じさせる話も聞かされながら、私達はいよいよムッフクボルド共和国へと向かったのだった。
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