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何か困ったことがあったら、必ず私に連絡してください

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『恋は実らずとも、力にはなってくれる』

まったく……メロエリータってば簡単にサラッとそういうこと言ってくれるよね。でも、その通りなんだろうな。

キラカレブレン卿は、私情で自分の役目を投げ出したりしない人だとはここまでで感じてた。だからそれはいいんだ。

ただ、私がこれまでと同じように彼に接することができるのか、そういう意味では自信がない。

それでも、状況は進んでいく。

クレガマトレンへと帰るのを明日に控えた日、私は、業務を開始したカリン商会ツフセレリアス支社に出向いて、訓示を述べることになった。

「皆さんのおかげで無事に仕事が始められました。感謝します。しかし、大事なのはこれからです。皆さんの働きがこの国の未来に直結しているのだということを常に心掛け、国王陛下と臣民に恥じない仕事をと期待しています。

もし、困ったこと、分からないこと、悩ましいことがあれば、ちゃんと本社に連絡をください。大事なのは<報告・連絡・相談>です。それを忘れないでください。責任を取るのは私の役目です、皆さんではありません。皆さんはご自身の仕事を確実にこなしてください。私からは、以上です」

支社を任せることになる三人と固く握手を交わし、私は支社の建物を後にした。そのすぐ近くに用意された、実際に堆肥化したウンチの回収・運搬を担うことになる奴隷の子達の住居兼待機場所になる建物にも顔を出す。

「こんにちは、マスター!」

奴隷達のリーダーと副リーダーになるオムとイギの二人が、嬉しそうにそう声を掛けてくれた。この二人はリレに比べるとまだおどおどしてないところがあった。仕事も真面目だし、はきはきしてるし、リーダーにはうってつけだと思う。

「ありがとう。仕事、がんばってね」

オムとイギにそう言った後、整列してた他の奴隷達にも向き直って、

「それではみんなも、この、オムとイギの指示に従ってよろしくね。これは、私からの命令です」

『命令です』という私の言葉に、奴隷達の身がキュッと引き締まるのが分かった。緊張で血の気が引いてる子もいる。こういう反応にもさすがに少し慣れてきたかな。

「でも、もし、何か困ったことがあったら、必ず私に連絡してください。あなた達で勝手に解決しないようにしてください。それは、仕事のこともそうだし、あなた達自身のことでもそうです。怪我をしたとか、病気になったとか、誰かとケンカになったとか、そういうのは隠さないでちゃんと言うように。

いいですね?」

「…はい…!」

戸惑いながらもそう答えてくれる彼女達に、私は思わず微笑んでいたのだった。

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