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ホント、人間って面倒な生き物だよね

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『あ~あ……フられちゃったな……』

キラカレブレン卿に対して深く頭を下げて、私は彼に背を向けて、メロエリータが待ってる部屋に戻った。

たぶん、カリン商会としてやっていく分には、これからも<仲間>でいられるかもしれない。だけど、私個人の<仲間>って言うか<家族>としては、彼とは縁がなかったんだろうな。

勝手に涙が溢れてくるのも拭わずに、私は部屋に戻った。

戻るなりベッドに突っ伏して泣く私を、メロエリータはただ黙って見守ってくれた。

<恋愛もの>としては大して盛り上がりもなくさらっと流した最低の展開だったかもだけど、私にとってそれはやっぱり自分の主軸に置くようなことじゃなかったんだよね。

だけど……

だけどそれでも、切ないな……

ホント、人間って面倒な生き物だよね……

覚悟を決めた筈なのに状況によってはそれがブレたり、さっき言ってたことと全く逆のことを口走ってしまったりとかね。

でもそれが<人間>ってもんだと思う。矛盾する思考や気持ちや感情を同時に持つことができるからこそ人間なんじゃないかな。そういう部分で全く矛盾がないのは、それはもう人間じゃない気がする。ロボットとか機械とか、そういうのに近いものになっちゃう気がするんだ。

もちろん、朝令暮改とかその場その場で言ってることが変わるようじゃ困りものだけど、大きく気持ちが揺さぶられるようなことを前にした時には、えらそうなことを言っていた人が情けない泣き言を口にしたり、立派そうな人がヘタレたり、逆に大人しそうな人がキレて狂暴な感じになったりなんていうのがあるのが人間なんじゃないかな。

そういう意味では、派閥の為に自分の気持ちさえ押し殺すらしいキラカレブレン卿も、もしかしたら私を選んでくれたりするかも知れない。けど、それを私の方から期待する訳にはいかないんだよね……

もしこれで彼が私の前から去ってしまっても、それは私自身が決めたことだから受け入れなくちゃいけない。

なのに、なんでこんなに胸が痛いのかな……

こんなことで、私、これからやっていけるの……?

そうやって不安になってた私に、メロエリータが言う。

「カリン。何度でも言うぞ。泣きたい時には泣けばいい。愚痴をこぼしたくなったら吐き出せばいい。私もアウラクレアもその為にいるというのもあるんだ。

私達は同じ目的の為に集まった仲間だ。互いに支え合うことで目的に向かって進めるんだ。私もお前に支えられてる。だから私もお前を支える。

そういう意味では、キラカレブレン卿も同じだろう。恋は実らずとも、力にはなってくれる。

彼はそれができる男だと、私は睨んでいる」

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