何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十

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あなたはご自身の国を大切にされているのですね

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ツフセマティアス卿の屋敷に行くと、キラカレブレン卿が出迎えてくれた。

「私のこともどんどん使ってください。あなたの力になれるなら、私も本望です」

真っ直ぐに私を見ながら当たり前みたいにそんな風に言うから、ちゃんと見られないじゃない! まったくもう…!

でも彼が力を貸してくれるというのなら確かにありがたい。

なにしろ、彼もそれなりに農業に関する知識があって、かつこのブラドフォンセスにも知己が少なからずいる。その顔を活かして人材を見繕ってもらいたい。

「真面目で、かつ自分では勝手な判断をしない人を探しています。勝手なことをしてこの村の畑に呪いを掛けた人物のようなのはそれこそ論外です」

と頼んでおいた。もう二度とあんなことがあってほしくないから。

あの磔にされた人達のことを思い出すと今でも眩暈がするほど苦しくなるけど、私は敢えてそういう言い方をさせてもらった。これくらい割り切れなきゃ、この先きっとやっていけない。彼らのことを悼むのは、私の胸の中だけにしておこう。

実は、磔にされた七人の遺体を、私は、カリン商会名義で試験用にと買った畑のある土地に運んでもらって、畑を見下ろす小高い丘へと埋葬してもらうように頼んでおいた。

「これは、私自身への戒めとする為です。愚か者に私の技術を使わせてはいけないということを忘れない為に」

とか何とかもっともらしいことを言って、キラカレブレン卿にも骨折ってもらって、手配してもらったんだ。

今回のことが一段落したら参ろうと思う。彼らにしてみても私なんかに悼んでほしくないかもしれないけど、どのみちあのままじゃゴミのように打ち捨てられるだけだった筈だからね。せめてもということだ。

私のこんなセンチメンタリズム、ここの人達には理解されないと思うけど、ある意味では私自身のアイデンティティでもある。無理はしないけど通せるところは通したいんだ。

その時、キラカレブレン卿が言った。

「あなたが異国の方だというのを改めて感じました。咎人を弔うなど、私達の習慣にはない。あなたはご自身の国を大切にされているのですね」

なんて言われると、正直、くすぐったい気分にもなる。向こうにいた時にはそこまで<自分の国>ということを意識したこともなかった。ただやっぱりこうやって全く違う文化の中にいると、自分には日本人としての血が流れ、習慣や価値観が染みついてるんだなと改めて気付かされた。

本音を言うとお米が食べたい。味噌汁を飲みたい。醤油を使いたい。ダシの効いたうどんを啜りたい。

カリン商会名義で買った土地は、実はそれを試したいが為のものでもあるんだよね。

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